十七章  白虎と青龍は闘いに・・・ 

(また、俺の邪魔をするのか!出て来い)

里中洋蔵は怒りをあらわにしている。

(確か、一矢・・・と言ったな。なぜ、志摩に来た?)

返事はない。

(お前に聞きたいことがある。誰にも邪魔されたくない。俺の前に現れろ。姿を現せ)

それでも返事はない。

飯島一矢は洋蔵の気配を感じていた。

(俺に聞きたいこと・・・。ふん)

一矢は気配を消していた。

「待て!」

少なくとも、二人の間での気配のやり取りは、この瞬間消えた。


その夜、大森智香は夢の中にいた。

「久しぶりですね、智香様」

白虎が彼女に近づいて来た。白虎は笑っている。久しぶりに見る白虎の笑い顔である。いつもは、智香をからかうような眼をしているのだが、どういう訳か、この時は違った。

「やっと、ここまで来て下さいましたね。褒めて差し上げます」

智香はイラっとし、

「褒めてもらわなくてもいいわよ。今日は疲れているから、話したくないの。何か、用なの?用がないのなら、早く消えて!」

「分かりました。消えます。でも、あなたに知っておいて欲しいことがあります。もう、あなたの前に現れることはないと思います。これから先は、あなたが背負った宿命に従って行動して下さい」

「どういうこと・・・」

「もう・・・あなたは自分が背負った宿命と闘っていけるからです。その覚悟が出来ましたのですね」

「そう簡単に言わないでよ」

そうあっさりと言われると、智香は何だか寂しさを覚えた。

白虎は、そんな智香を見て、

「大丈夫ですよ。もう、智香様はりっぱ白眉の使者になられています」

と、にこりと口元を歪めた。笑っているんだろうけど、猫のような口が笑うと、やはり変な感じだ。智香には、白虎の笑顔にいまだに慣れない。

「白眉の使者?何なの、それ・・・」

だが、その問いかけには、白虎は答えようとはしない。

「私と青龍は、あの男を捕獲して、なくてはなりません。それに・・・」

白虎には珍しく言いよどんだ。

智香は白虎に、

「何なの、何を言おうとしたの?」

と問い返した。

白虎はにこりと笑った。なぜか、今度は笑っているように見えた。

「五郎太は、智香様の友だちの孝子様とまだ一緒です」

それは、智香も知っている。

白虎は、

「一度、孝子様は父君に助けられました。でも、すぐまた五郎太が奪い去ってしまいました。残念ですが・・・」

「どういうこと?何があったの?」

「五郎太をこの志摩で追い詰めました。気を失っている孝子様を抱えたままでは戦えないとおもったのでしょう。孝子様を一旦地上に下ろしました。その時船の陰に隠れていた孝子様の父君が、孝子様を助けたのですが、気付かれ、すぐまた五郎太の手に奪われたのです」

智香がぬいと会っている間に、いろいろなことがあったようだ。

「孝子は、今どこにいるの?」

「この志摩に、まだいます。」

「ということは、あなたたちの追っている五郎太も同じにいるってことね」」

「はい。しかし・・・」

「しかし・・・何なの?」

はっきりしない白虎に少し苛立つ智香である。

「あの男は、ここからいなくなる可能性があります」

智香は白虎を睨んだ。白虎の本心が知りたい、と智香は思った。

「そんな睨まないでよ。そんな白虎・・・あたいは嫌いよ」

「しかも、智香様の友だちの孝子様を連れて・・・」

智香は目を開けそうになった。二人は現実の世界にも姿を現すが、今は智香の夢の中にいる。こんな時に目を開けると、二人が消えてしまう。智香は、それを何度も経験していた。だから、目を開けない。

「だめよ。そんなことは、だめよ」

智香は叫んだ。

「止めて。止めて。あなたたちなら止められるでしょ」

白虎は顔を背けている。返事がない。

「どうしたの?」

青龍は相変わらず黙っている。いつも、こうだった。

「青龍、行くぞ」

白虎は智香の夢の中から出て行こうとしている。

「待って」

「智香様、われわれにはまだ分からないことがあります。なぜ五郎太が孝子様を連れ出そうとしているのか・・・その謎を突き止めなければなりません。やがて、われわれの仲間がその答えを持って来るでしょう。それによって、ちょっとややこしいことになるかも知れませんが、とにかく今は五郎太を追っていきます。何処までも追い続けます。われわれ、私と青龍の役目は五郎太を捕獲し、あいつが生きた時代の牢獄に閉じ込めなければなりません」

「待って!」

智香は哀願した。彼女には手の届かない世界のように感じた。

「孝子を・・・助けて!」

というしか、智香にはなかった。

白虎は振り返り、また笑った。今度は、智香にも笑っている顔に見えた。

「もう会えないの?」

智香にはそんな気がしたのである。

「また、会えます。まだ、智香様は自分の宿命について、すべてを知ってはいないのですから」

智香は頷いた。彼女はそうだと思った。

「私は本当に一人になってしまうのね」

「違います。今は、あなたの傍には何人かの掛け替えのない人、友人がいらっしゃるじゃないですか」

白虎は青龍に目を移した。

今度は、青龍は智香の方を見ていた。

智香と目が合った。長い付き合いだったが、初めて青龍を見たような気がした。気にせいか青龍が笑っているように見えた。

「お願い・・・まだ傍にいて・・・」

智香がこう言うと、二人とも彼女の夢の中から、消えた。


智香は目を開けた。目がしっとりと濡れていた。

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