第十六章 座神の財宝と吉佐
「財宝は、この志摩の何処かにあるのですね」
智香は興味を持っている。卓くんと美和ちゃんを、あっちに行く機会があれば、財宝があるからみんなで探して行こうと彼女は誘ったのだから。でも、彼女は一人で志摩に来た。それでも、智香には少し興味があり、ぬいに思い切って、訊いた。
「はい。というより、この座神近辺に・・・」
ぬいは智香から目を離さず、ゆっくりと頷いた。ぬいは続けた。
「確かに。この志摩の何処かにあるのは間違いないようです。そのことに関してですが、一つだけ、形あるものとして残っているものがあります。これは伝説ではないのですが、双竜王という珠が二つそろった時、何かが起こり、財宝のある場所が明らかになると言われています。これは、あくまでも噂です。伝説なのです。この座神の何処かにある、いえ・・・確かな噂としてあるようです。おそらく、今の座神の人たちの誰も目にした者はいないかも知れません。その二つの双竜王珠が、どういう経緯で伝わり、何処にあって、今どのように伝わってきているのか、私が知る由もありません。吉佐が持っていたのか・・・仕組んだのが誰なのか・・・吉佐にそのような技術があったようには、私は聞いていません。海賊の首領として吉佐が集め、幸運にも手にしたというしかない、と私は祖母と母から聞いています。その頃の噂では、双竜王の珠は最初源治の奥様が持っていたのでは・・・と囁かれていたようです。それが、どうして吉佐の手に入ったのか、良からぬ噂が飛び交っていたようです。ですが、真実は明るみにならなかった。吉佐様は、その二つ双竜王の珠の力で持って、財宝を隠したのですが、利右衛門様と源治様に殺されてしまいます。その二人も結局誰にも、その秘密を教えることなく亡くなられました。そして、座神のみんなは、今もその二つの双竜王の珠は、この座神の何処かにあると信じています。でも、実際の所、その双竜王の珠が今はどうなってしまったのか、私には分かりません」
智香は、ひょっとして、と思い、
「ちょっと待って下さい」
というと、彼女は立ち上がった。そして、枕元にきちんとたたんであったスカートのポケットから一つの珠を取り出し、ぬいに見せた。
それを見るなり、
「ああ・・・これは・・・これです。やはり、智香様がお持ちでしたか・・・」
(これは・・・死んだ母が手に握っていた)
と智香は言いたかったが、言わなかった。
ぬいは涙目で、智香の珠を見つめた。
「この珠です。もう・・・一つは?」」
ぬいは、もう一度目を輝かせて言った。
「もう一つ、あったのです。でも、今は何処にあるのか分からなくなりました」
「そうですか・・・」
と、ぬいは、
「私は初めて目にします。母、祖母からこのようなものだとは聞いていたのですが、不思議な輝きですね。それでいて生きているように見えます。吉佐から、お二人の手に渡り、初めは、利右衛門様と源治様が一つずつ持っていたようです。お二人とも、自分たちの代だけの財宝にするつもりはおなりにならなかったようです。自分たちが老いた時、次の当主に双竜王の秘密を伝えるおつもりだったのでしょうが、死が自分たちの予想しない程早くやってきたのです。その後、どういう経緯で、今日まで伝わって来たのか分かりませんが、
(いずれ・・・)
「やはり智香様に手に戻ったのですね。戻ったという言い方が、ぴったりなのですね。何処かに伝わっている噂では、その珠には守り神が付いていると言われています・・・大きくて、白い鳥」
智香は自分の耳を疑った。
「白い鳥・・・」
「そうです。白くて、大きな鳥です。夢のような噂ですが・・・」
ぬいは優しい目で、智香を見つめている。
智香は、洋蔵と闘っていた時現れた白い鳥のことなのか、と考えてみた。しかし、今は、その白い鳥の正体が何なのか、彼女は確かなことは言えなかった。母真奈香が握っていたこと以外確かなことはなかった。
「この珠には、どういう由緒があるのでしょう?」
智香は独り言を言った。
「分かりません。この珠がどう伝わって、最後に智香様の手元に辿りついたのか。この珠だけが知っているのかもしれません。」
智香は顔を上げると、ぬいの目とあった。
ぬいはゆっくりと頷いた。
「気になることがあるのです」
智香はまだすっきりしなかった。
「吉佐は本当に死んだのですか?」
今となっては確かめるすべはなかった。智香にはあいつの存在を無視するわけにはいかなかった。あいつ・・・里中洋蔵と吉佐を結び付ける証拠のようなものはなかったのであるが。
「ここ・・・座神で、今までもいろいろ恐ろしいことが起きているのは事実です。しかし、吉佐様とその恐ろしいこととを結びつける証拠は何もありません。ただ・・・恐ろしいことが起こる度、人は吉佐様の怨念に違いないと言います」
ぬいの顔色が青白く濁り始めた。智香は、そんなぬいの様子に気付いた。
「ぬいさんの周りで恐ろしい出来事が起こっているのですね、ここ最近?」
ぬいは微かに首を振った。
「何かが・・・あった」
次の瞬間、ぬいの首の動きが止まった。その後、ぬいの体は震え出した。
智香の手首の黒い痣がうずき始めた。
(いる。あいつは、この近くにいる。どうして現れない)
洋蔵の返事はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます