第十五章  伝説のその後・・・

「伝説では・・・」

という言葉を、ぬいは繰り返した。


結局、二人は海賊をやっていた者たちの漁師の仲間を殺してしまうのですが・・・。世の中の取り締まりも厳しくなり、海賊としてもう動き回ることが出来なくなってきたのです。もうこれが最後の仕事と決め、奪い取った財宝を前にして帰ると、祝杯をあげました。生死を共にした仲間だから、誰も疑わない。誰もが油断をしていたのだと思います。誰もお二人を疑わなくなっていたのです。振舞われた酒の味がいつもと違うのさえ分からない。その挙句、みんな苦しみながら死んでいったのでしょう。可哀そうに・・・お二人は多分ほくそ笑まれたと思います。でも、このまま帰ったら疑われます。お二人は計画通りに、念には念を入れ、仲間に体に傷をつけ、実際に闘って死んだように見せたのです。つまり、今日は獲物はあったが、闘いとしては負けたとしたのです。

その光景を目にして、村中悲しみに包まれたようです。でも、生き残って帰って来たお二人を、誰も疑わなかったと聞いています。

一人、吉佐の妻、しの、だけは、別でした。しのはお二人が夫の吉佐を殺したのは見て知っています。「きっとあの二人が・・・」と思いました。でも、確たる証拠はありませんでしたが、しのは二人を問い詰めたようです。もちろん、お二人は否定した。それでも執拗に問い詰めるしのを、吉佐と同じように海に沈めたのです。そうです、二人の子供たちもです。これは、さっきお話ししましたかね」

智香は、しばらく何も言えなかった。源治という人の子孫が、真奈香であり智香だった。そして、利右衛門という人の子孫が、大森何某・・・智香の父である六太郎だった。だとすると、吉佐の子孫はどうしたのだろう。

(吉佐は死に・・・妻のしの・・・)

二人の子供は・・・いたの?いたとしたら、死んだの?それとも、彼らの内の誰かが生き残っていて、吉佐の怨念は生き続けているの?あいつ・・・里中洋蔵はあたいに言った、四百余年前の怨念・・・宿命・・・闘う宿命・・・。

「まただ!」

智香は顔を歪めた。黒い痣が、彼女の手首を締め付け始めた。

そんな智香を見て、

「どうされました?」

とぬいが気遣う。

「大丈夫です。吉佐の遺体も見つかっていないんですね。しのさん、そして二人の子供の体も見つからなかった」

ぬいは頷いた。

(生きていたとすると・・・里中洋蔵・・・馬鹿な、あたいは、何を考えていの)

「利右衛門、源治は・・・」

智香は気になることを聞いた。

「お二人は、しばらく座神の人たちに財宝を分け与えていたのですが、その内変な欲望が生まれたようで、だんだん財宝を分け与えなくなったようです。いつの間にか、そんな噂は自然と無くなりました。誰も、何も言わなかったときいています。

だけど、人間悪いことはできませんね、とぬいは複雑な表情を見せた。

「お二人は漁に出た時に嵐に遭い、二度と座神に戻って来ることはなかったのです。その時、座神の人たちは、吉佐の怨念がお二人を殺したと噂しました。お二人が吉佐の一家を皆殺しにしたというのは、証拠はなかったのですが、噂として定着していましたのです」

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