第十二章  座神の伝説・・・?

青田ぬいは、その後座神の伝説について、床に入ってからも老婆の話は続いた。時々智香に顔を向け、哀し気な眼を見せていた。


 青田の家系は代々五十嵐家に使えて来ました。座神の人々すべてがそうであるように、青田の家も元々は漁師でした。それがいつの間にか、漁師をしなくなったのです。どうやら五十嵐のご主人に、家の世話をしてくれないか・・・と、懇願されたようです。五十嵐の家は網元で、座神の人たちの信頼を集めていました。青田の家は五十嵐の家に目を掛けて頂いて、生まれた女は七つ八つになると、五十嵐の家に奉公に出ます。私もその頃から五十嵐の家に住み込み、読み書きなどいろいろなことを教わりました。

すいません、私の話が少し逸れてしまっていますね、座神の伝説の話でしたね。昔、漁師の傍ら座神の一部の人たちは獲物となる船が近くを通り掛かると、何人かが海賊となり、船を襲いました。時には瀬戸内の方まで行くこともあったようです。

青田の家は海賊の仲間に加わらなかったため、今まで無事に生き延びることが出来たと聞いています。真奈香様の先祖の五十嵐源治様が、そう強く望まれたとのことです。

源治様と大森利右衛門様は二人して、座神の漁師たちをまとめてみえたようです。座神には、この時期二人の網元がいました。何らかの理由があったようですが、みんながその状態を受け入れていました。この辺りの漁師は漁場に恵まれていて、それだけで生活出来ないことはなかったのです。人の欲望は限りがないもので、特に荒っぽい性格の漁師たちは魚を獲ることよりも、人を襲い、金銀財宝を得ることに快楽を感じていたようです。

利右衛門様の弟に吉佐という方が見えました。実際は、その吉佐が首領となり、海賊となって襲う者たちをまとめて見えたと聞いています。獲物によって仲間に加わる人数は違いましたが、その点でも吉佐が、その時々に漁師たちを選び出して、船を出していたのです。多い時には二三十人はいました。でも、最後には、海賊をやっていた者たちは、みんな死んでしまいました。悪いことはできないですね。

人間の欲がお互いに不信感を生じさせ、集めた財宝を独り占めにしようとしました。誰が初めだったのか、今となってはそんなことは分かりません。ただ、一度生まれたお互いに対する不審な感情は絶対に消えることはありません・・・」


青田ぬいは、ここで話すのを止め、智香をじっと見つめた。悲しい目だった。この幼い女の子に、なぜこんな宿命を与えるのか、ぬいは心の中でこう問い掛けていた。

「ぬいさん・・・」

智香はそんなぬいに優しく声を掛けた。そして、ぬいの気持ちを察したのか、

「話してください、あたいなら大丈夫です」

と口元を緩めた。

「は・・・はい」

ぬいは、軽く頷いた。

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