第十三章 さらに続く、伝説の話・・・
四百余年以上も前・・・寛永年間。この志摩の国には五十四カ村あり、地頭が十三人いま
した。それぞれの地頭が時々は仲間になったり、互いにくっ付いたり離れたりして策略を企てたり闘いをやっていたようです。時には争いが起こり、多くの人が死んだりしていたと聞いています。そのような争いは、志摩に住む人たちにそれなりに影響を与えていました。智香様のご先祖も、そのお一人なのでした。
座神という場所は周りを小高い丘に囲まれて、一方は英虞湾があり、自然の城壁の役割をしていました。お話しましたように、座神には二人の網元がいましたが、そのことで、座神内では不思議なことに争いらしい争いは起こらなかったと聞いています。すいません、年寄りの話は何度も同じことを話すかもしれません、お許し下さい。
魚を獲ること以外には海賊となり、近くに獲物の船が来た時には、時には瀬戸内の方まで出て行ったようですが、ほとんどが吉佐が首領として、海に出て行ったのです。何度か網元の源治様と利右衛門様も加わることがあったようです。その時は、とても大きな獲物だったようです。その様子を見つめる座神の人たちは、関係がうまく行っていると安心していたのかもしれません。何があったのか・・・でも、魚だけを獲っていれば平安な生活が得られたものを。輝く財宝は人間の欲望をくすぐったようです。その結果、奪った財宝を管理し、秘密の洞窟に隠している場所を知っているのは、吉佐と源次様、そして利右衛門様です。初めはこの三人の間に妬みが生まれていなかったようです。 しかし、この三人の間では、静かに、ゆっくりと妬み、憎しみ、すべてを自分のものにしたいという欲望が生まれ始めていたのです。
源治様と利右衛門様は二人して、吉佐を殺してしまうのです。その詳しい成り行きは、私にはよく存じません。最も利右衛門様は表立った動きはしなかったと聞いています。やはり吉佐が血を分けた弟だったこともあるのでしょう。
吉佐は頭が良く、仲間をうまく取りまとめていて、誰からも信頼を得ていて、それは網元である利右衛門様、源治様をしのぐものでした。お二人には、それも気に食わなかったのかもしれません。
ある時、源次様と利右衛門様は奪い取った財宝の隠し場所は英虞湾の何処かの洞窟に移し替えたのです。座神の沖です。もちろん、吉佐には内緒です。それに気付いた吉佐は怒りました。
吉佐は配下の欲望をうまく扱う人で、財宝を独り占めにするのではなくうまく配下に分け与えていたのです。そんな吉佐をよく思わないものがいました。利右衛門様と源治様です。自分たちが網元という自負もあったと思います。何よりも一番気に食わなかったのが、財宝を吉佐一人が隠して、管理していたことだと思います。
吉佐を殺すことで二人の意見は一致したのですが、やっかいなことに吉佐は利右衛門様の弟だということです。いつの時代も肉親に対する感情は複雑なものがあります。渋る利右衛門様に、俺がやると源治様はいったといいます。とにかくそういうことになったのです。
もう一つはっきりしなければならないことが御座いました。それは、財宝の隠し場所です。それも、船を襲い、奪い取った時に、二人は吉佐の後をつけ、その洞窟を見つけました。それからしばらくして、吉佐は殺されたのです。洞窟の場所さえ分かれば、吉佐の言いなりになる必要はないのですから・・・。
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