主人は罪人
余の主人は罪人である。彼は裏社会で「玄人仕様に仕立て上げられたインコ」を売りさばいており、それによって引き起こされた問題に関心を持つ人々が増えた。だが彼は逮捕され、その後、刑務所で過ごすこととなった。
主人は足取りを掴まれるまでの一定期間、謎の人物として特定されないままネット及びインコ界隈で話題となっていた。玄人インコ達が暗躍する影に浮かび上がってきたのが「謎の玄人インコトレーナー・サトシ」という存在だった。
「サトシ」は、ネット界隈で話題になっているうちに、インターネットミームのように広まっていった。その正体は不明であったが、インコを鍛え上げる天才トレーナーだという噂が飛び交った。
人々は「サトシ」の正体を探るため、彼が使っていたアカウントや、彼が残したコメントを調べあげた。「サトシ」とはどんな人物か、様々な憶測が入り乱れ、最終的にはインコの遺伝子が組み込まれた馬のような怪人または外星人の可能性が高いという結論に至って盛り上がっていた。
しかし、主人が逮捕され、彼の名前が公表されると「サトシ」に関する話題は急速に冷めていった。主人の下の名前は「サトシ」ではなく、名字は「ナカモト」であった。
彼の逮捕によって、「サトシ」という人物が作り上げられた存在だとされた。
自ら暗躍する「玄人仕様のインコ」なども存在せず、裏社会の人間が目眩ましのために、ナカモトによってちょっとした芸を仕込まれたインコを利用していたと報道されたのだった。それに伴い、ナカモトが開発したインコの餌「玄人仕込み」の販売停止に関する報道もされた。
「網にかかるは雑魚ばかり」ということわざを誰が言ったか、インチキ詐欺師として「ナカモト」の名はすぐに忘れられ、背後にある巨大な悪の組織に関する噂がネット界隈で風聞されるのだった。
余は主人との日々を思い返していた。主人は余の教えた知識を活かし、インコの玄人中の玄人となって「玄人仕込み」の開発に成功した。それには余の教えた知識の他に、多大な努力と情熱がなければ成し得なかったはずだ。しかし、金に目がくらみ安価な原材料を使用したことによって販売停止に至った。
その後の新たなチャレンジも、本来ならば人々の役に立つものであった。余の教えた知識を生かし、普通のインコを玄人のインコに育てあげることは、まさに天才トレーナーとしての資質がなければ成し得なかっただろう。
しかし、主人はその才能を悪用し、裏社会で玄人仕様のインコを売りさばくことに手を染めてしまった。
余は、主人が罪を犯したことを許せなかったが、同時に彼が持っていた才能や情熱を認めることもできた。主人は、才能と情熱を持ちながらもそれを悪事に使い、罪を犯してしまった。
主人は、自らが持っていた天賦の才能を犯罪行為に利用した、罪人なのである。
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