こんな俺にもできること

@aimiyuki1216

第1話

誰か、俺の手を引いて、止めてくれ。


「どうしてこうなったんだ」


思わず口に出してしまうほど

いまの状況が受け入れられない。


俺は、ただ

アイドルのような人気者のグループに属したかっただけだ


華やかな人生を夢見た

より良いとこに行きたかった


誰だってそうだろう。


だから


俺は先輩のいうことならなんでも聞いた。

飲み物を買ってこい、場所の予約をしておけ、やっぱいけないからキャンセルしろ

なんでも従った

そしたらグループにいさせてもらえるから。



それがそのうち

親の財布からお金を取ってこい

になった。


断るチャンスは多分いくらでもあったんだとおもう。


それでも俺は従い

こっそり深夜にタンスの中を漁る

それで数ヶ月はなんとかやりくりし、先輩に渡していたが

まあそりゃバレるよな

親にひと晩中叱られ、もう用意できないというと、今度は知らない家に入って金をとってこいと

いわれた。




……そんなこんなで俺は今、知らない人の家

門の内側にいるのだ。



「どうして……いやだ……やめたい……」



砂利が音をたてる

植木鉢の裏にある鍵。

ここから先はガチで犯罪だ。

いや、身内同士でも犯罪っちゃ犯罪なんだけど

重みが違うっていうか……こわい。


おそらく無人だとおもうんだけど……

居たらどうしよう


20分ちかくうろうろしてしまう。


そんなとき


『いいか?』


脳内から声がした。


『途中で裏切ったら

クラス中にお前のいままでしてきたことをバラす

いや、クラス中どころじゃない

引っ越しても伝わるくらい広いコミュニティが俺にはある

逃げられはしない

知り合いにはヤクザもいるんだ

のうのうと生きられるとおもうな

怖いだろう?だったら逆らうな

お前にとって絶対なのは親でも法律でもない

俺だ

わかったか?』



ふー、と長い息をはいた

えい、いい、やろう

進んでも退いても地獄



俺は家の中に入り

音を殺して廊下を歩いた


そして居間へたどり着きー……

タンスをあけていく


どうやら高齢者の家らしく、下着がまあ全部よれよれの盗む気もおきないそれ。

まあ下着なんてどうでもよく探してるのは金目のものなのだが


一段目はずれ

二段目はずれ

三段目はずれ


大丈夫、大丈夫、言い聞かせるようにつぶやく

とっくに効果が切れてそうな色褪せた防虫剤が、ころっと落ちた。



その時だった。


「アンタ誰だい?!」


切り裂くような声ー…


居たのだ、おそらく物音で2階からおりてきたのだろう

顔をみられた

俺はパニックになりあたりを見回す。


『ひよって手ぶらで帰ってきたら逆さ吊りにして晒してやるからな』


だめだ、手ぶらでは帰れない!

こんな時まで先輩の言葉にコントロールされる自分が嫌になる

俺はとっさに目に入ったゴルフバットを手に取り叫んだ


「か、金目のモンだせ!ころすぞ!」


たのむ、素直に出して逃してくれ

それか助けてくれ

金目のものを手に入れたところで自分が使えるわけでもない

この日々が報われるわけでもないのに。



婆さんはいつまでも強気の姿勢を崩さず

金目のもんなんてないよ!警察にいうからね!の一点張りだった。

まさかそんなに強気なタイプだとは


ついてない。


パニック状態になった俺は、いつのまにかそれを振り下ろし、目を開けたら婆さんは畳の上

血まみれで横になっていた。




白くなっていく肌

やたらと大きく聞こえる周囲の音

錆びた匂い


「あ……ああ……」


やってしまった



俺は自分が被害者のようにボロボロ泣きながら立ち尽くす、しばらくして……


こうしていても仕方ないと

金目のものー、黒い長財布

しかし500円しか入ってないそれをもって

庭へ一歩踏み出した


気持ちの整理がつかず、とにかく離れたい

その一心で


その時



ガサガサと後ろで音がした



「!」


婆さんが生きていた。


畳に血文字でなにやら書いている


男 白いくつと読める


やばい!



「たのむ、ここまでしてバレたくないんだ

ごめん、ごめんなさい」


俺は再度それを振り下ろした

静かになる体


たしかに消えていく、命の鼓動



もがいて、生きようとしたそれすらも

さらに摘み取るなんて

なんて非道な犯人だ

そしてそれは俺だ



長いため息をはき、畳をこすってふいていく。


ほかに?俺が犯人とバレそうなものは?

ないか?

わからない。



「……ごめんなさい」


呟いて

俺は今度こそ庭から出ようとした



すると




パシャ!と音がした



振り返ると婆さんが膝立ちのままスマホをかまえ

俺の後ろ姿を撮影していた。


しかも結構連写するじゃん。


「……ば、ババア!!」



さすがにおかしくないか

俺殺したよね?

気の所為じゃないよね?


「なんでまだ動けるんだ!」


俺が叫ぶと婆さんは笑った


「はい正面からの写真もとったよー

警察に全部出すからね!即逮捕だよアンタ!」


「待って!その前になんでそんな元気なんだよ」


「これからの人生前科持ちでパーな上に

たった五百円しか得てないお前の負けだよ!バカめ!」


死に間際にやたらと力がわいてくるとか

そういうことではなさそうだ

なんていうか

よくみると、婆さんの傷はなぜかふさがっている



「……ああ、わたしが無事な理由は

不死だからだよ

昔1000万で海外から薬をとりよせてね

胡散臭いけどそれで不死になったのさ

+500万で不老もつけられたけどそれは予算オーバーだったのでやめたよ!寿命死して復活しそこから不死ババアになったわけさ」


「不死ババア?!」


どうしよう、予想外の展開にどうしたらいいかわからない

はじめて犯行におよんだ家の住人がそんな濃いことってある?



とりあえず俺は謝り、土下座をした。



「……よくわかんないけど、あなたを殺せないのはわかりました

お願いします俺の話も聞いてください……」


「……犯行にいたった経緯があると?

いいよ、話しな」


「……はい」




俺の家は、母はまあやさしいが

父はアルコールが入るとすぐ母に暴力をふるうだめな男で、父が機嫌が悪いと母も次第に機嫌が悪くなり

最終的に鬱憤は一番家で立場の弱い俺に向かった


殴られたり蹴られたりはしなかったが

よく食事ぬきになった。


俺は常にお腹をすかせ

夜眠れず

いちごジャムをスプーンですくって8枚入りの食パンをバレないようにぬきとり一気に口にふくんでいた。

そのあと

水でお腹を満たした

そんなことは何度もあった。


そんな俺が憧れたのは、体験したことのない

きらきらした世界

学校にいくと一番モテるグループがどうしても目に入った、羨ましくて仕方なかった

お金があって、人望があって

未来があって

何もない俺と反対で


そいつらの一員になるためになんでもするようになったのは

そんなあこがれからと、元々何も持ってないからこれ以上状況が悪くなることはないだろうという考えからだった。


家族とか友達とかペットとか

なにかひとつあれば引き返せただろう。

俺を引き止めるものはなかった


奴らは

言うことさえ聞いてれば

そのグループに属してても恥ずかしくない程度に美容院で身なりを整えてくれたし、合コンではすきな物を食べれたし異性にも近づけた。

まあ陽キャグループの中のいじられ役みたいな感じで、俺の失敗を誇張して笑われ

ギャルからきもいて言われるだけだったけど

それでもクラスの隅で本をよんでうつむいてる前髪の長い男子よりはイケてるって思ってしまった



そのうち、そのグループに属してていいこととわるいことのバランスがくずれ


最近では犯罪に加担させられるだけで

何一つとしていい想いはしていない


分不相応な生活をのぞんだ罰なのか

奴らは散々つくした俺を見捨てる気だ



裏でひどいことをいって

俺を操りながら

計画した奴らは罪を負わず

俺だけが…………



そこまで泣いて語ると


うんうんと婆さんは頷いた。



「もしもし、警察ですか?」


「すこしは躊躇ってくれよ!警察呼ぶのはやいって!」


「残念でした〜最初からたとえあんたが虐待されいじめられ精神疾患かかえててそれでも健気に貧しい人に寄付しつづけたとかいいだしてもそれはそれ罪は罪なので通報する気満々でした〜バカめ!」


「じゃあなんで話を聞こうと思ったんだよ!」


「暇つぶしさ!」 




結局、俺は素直に逮捕される羽目になりー……

しかし肝心の婆さんが生きているため

殺人強盗とかではなくふつうに強盗という扱いになり

刑期は短かった


すぐ家に帰れた俺は自室でスマホをいじる。


あいつやらかしたよwとSNSではつぶやかれ

メッセージをおくる先はブロックされ

俺は完全にグループから縁を切られた


そして思うのは


ヤクザなんて攻め込んでこないってこと


多分嘘だったんだろう。


じゃあ一体なににあんな怯えてたんだ

世界はおわらない

世界は続いている。


こんなちっぽけな俺を無視して



「…………」



あの婆さんが不死でなければ(ふつう不死なわけがないし)俺は殺人者だ

あんなしょーもない理由で

殺した

死んでないからって殺した罪が手から消えた感覚はしなかった

というか、消えちゃいけないとおもった。




俺は親の態度とか学校での立場とか全部無視して

勉強をする。




そしてー……



手土産片手に


息を吐く



「ババア、遊びに来たよ」


「お、久しぶりだねえこの強盗殺人者!

おやつでも食べていきな

なんせ暇でね、話なら何でも聞くよ」



なにもない俺だけど

一つだけすることができた


こんな俺にもできることだ。




「昨日は餅が喉につまって死んだよ!

まったく凶器だねあれは!」


「……ゆ、ゆっくり食べなよ」




奇妙なババアの、話し相手。





end



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