なぜ母のいびきは不快なのか?

 私は母のいびきが嫌いだった。母は夜になると大きないびきをかく。私はその音に耐えられなかった。母のいびきは私の眠りを妨げるだけでなく、私の心をも乱すものだった。


 私は母に対して複雑な感情を抱いていた。母は私にとって優しくて頼りになる存在だったが、同時に私にとって重荷でもあった。母は父と離婚してから、私と二人暮らしをしている。私は高校生だが、母は仕事が忙しくて家事や育児に手が回らない。私は母の代わりに家事をしたり、アルバイトをしたりして家計を助けている。私は母に感謝しているが、自分の時間や友達と遊ぶ時間がなくて寂しいと思うこともある。


 母のいびきは私にとって、母の存在そのものを象徴するものだった。母のいびきは私に、母が私のそばにいることを教えてくれるが、同時に私が自由になれないことを思い出させる。母のいびきは私に、母が私を愛してくれることを安心させるが、同時に私が母を愛してあげられているか自信が持てないことを苦しめる。


 ある日、学校から帰ってきたら、母が倒れているのを見つけた。救急車を呼んで病院に運ばれたが、診断結果は睡眠時無呼吸症候群だった。医師は毎晩大きないびきをかくことで酸欠状態に陥っており、心臓や脳に負担がかかっていたと説明した。早期治療が必要だと言った。


 私は驚いた。母のいびきはただうるさいだけではなく、危険なサインだったのだ。私は自分の無知さや無関心さを恥じた。私は母の健康や幸せを願っていたのだろうか? 私は母のことを本当に理解していたのだろうか? 私は母のことを本当に愛していたのだろうか?


 病院で目覚めた母は笑顔で私に話しかけてくれた。母は自分の病気や治療法について聞かれても平然と答えた。母は自分のことよりも私のことを心配してくれた。母は「ごめんね、いつも大きないびきをかいて、あなたの眠りを邪魔してしまって」と言った。私は母の言葉に涙がこぼれた。母は私のことを気遣ってくれていたのだ。私は母に「いいえ、大丈夫です。お母さん、大好きです」と言った。母は私の手を握って笑った。


 医師は母にCPAP療法(持続陽圧呼吸療法)を勧めた。CPAP療法とは、睡眠時にマスクを装着してそこから空気を送り込むことにより気道が塞がるのを防ぐ治療法だ。医師はCPAP療法が睡眠時無呼吸症候群の最も効果的な治療法であると説明した。母は最初は抵抗したが、私や医師の説得に応じてCPAP療法を始めることにした。


 母は自宅に戻ってからもCPAP機器を使って眠るようになった。最初はマスクが合わなかったり、空気の圧力に慣れなかったりして苦労したが、徐々に慣れていった。母はCPAP療法を始めてから、日中の眠気や頭痛が減り、元気になったと言った。私も母の変化に驚いた。母は以前より笑顔が増え、仕事も家事も楽しそうにこなしていた。私も母と一緒に過ごす時間が楽しくなった。


 私は母のいびきが嫌いだったが、今では違う気持ちになっている。母のいびきは私にとって、母の生命力や愛情を感じるものだ。母のいびきは私にとって、母と一緒に過ごす幸せな時間を思い出させるものだ。もちろん、CPAP療法で母のいびきは小さくなったが、それでも私は母のいびきが聞こえると安心するようになった。


 私は今では母のいびきが好きだ。なぜなら、それは私と母の絆を深める音だからだ。

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