第23話 食事に誘われる
「それなら一緒に食事しましょう!」
ある程度話が落ち着いてから伊子に話しかけて、何かあったか聞いてみたら返ってきた答えがこれだった。
今日の仕事終わりに一緒に御飯をということらしい。
「食事か。それなら本多さんもどうかな?」
伊子から誘われては見たがいくらなんでも俺と二人は落ち着かないだろうし、同じ女性の栞を誘った。
この二人年も近いしな。話も合いそうだ。
「えっと、私もいいのですか?」
「寧ろ同性がいたほうがいいだろうしな。だよな根羽さん」
「……別にいいですよ。えぇ私と二人きりよりいいんですもんね」
「良かった。じゃあ帰りに」
「えっと、は、はい――」
こうして俺たちは仕事終わりに三人で食事に行くことになった。全員上がりが一緒なのもちょうど良かったな。
ただ、俺としては普通に夕食食べて話聞ければいいかなぐらいの感覚だったのだが、結局伊子が率先して決めたのは居酒屋だった。
店に入ってそうそう酒を注文してしまった。まぁ大学生と言っても成人してるようだから問題はないのだがな。それは栞も一緒だし俺もまぁ呑める方だ。
「るぁわ~かーら! 飛斗は女の子の気持ちがわかってぇないのらぁあ!」
そしてこれである。今現在凄く伊子に絡まれている状態だ。どうしてこうなった。
今日は何か不機嫌になってたし、仕事で何か嫌なことでもあったのかと考え、それなら話ぐらい聞こうかと思えばこれだ。
ただ、居酒屋に入って早々に酔っ払っていたとはいえ不機嫌な理由が俺にあったとは。
いや、思い当たる節はあるな。元の世界でも俺は女性の気持ちなんて全くわからなかった。
まぁそもそも魔界の女性と絡むことが少なかったんだけどな。一応魔界にもサキュバスやリリスという評判の美形種族はいたけどあまり接点はなかったし。
一番顔合わせしていたのは同じ四天王のマリリスだったな。そういえば俺あいつにも嫌われていたな……会う度に顔を赤くして文句言われてたし。
『べ、別にお前の為じゃないぞ! 魔王様の為になると思ってこんな面倒事に付き合ってやるんだからな!』
そんなこといいながらも彼女はダンジョンに付き合ってくれたから悪い奴ではなかったな。いや、嫌ってる俺に一々付き合ってくれたんだからむしろいいヤツだったか。
他の四天王にはあまりいい扱いされなかったけど、そういう意味ではマリリスだけはちょっと違ったかもしれない。
「むぅ、わらしの話きい~て~ま~すか~?」
「あ、うん。聞いてるよ。ごめんな俺が何だか頼りなくて」
「へ? い、いや、しょんな別に頼りなくなんて……」
俺が答えると急に伊子がモゴモゴしだした。声がよく聞き取れないな。
「飛斗さんは頼りになりますよ。お爺ちゃんも飛斗さんのことを頼りにしてるって言ってましたし、私が見ている限り店で一番良く動いてくれているのは飛斗さんです」
栞が随分と嬉しくなることを言ってくれた。こうやって評価してくれる人が一人でもいるとやる気に繋がるよな。
「そうですよ~わたしぃらってぇ、飛斗さんは頼りになるって、きっとお父さんがいたらこんな感じかなって思うぐらいには頼りにしてますぅ!」
ぐぐいっと顔を近づけ伊子が言った。
「はは、お父さんか。それぐらいに見えちゃうのかな?」
一応年齢的には俺はまだ二十六歳だ。別にごまかしているわけじゃなく魔界でもそうだった。
他の魔族に比べて俺は全然若く、ただ向こうではそれも色々嫌味を言われる要因でもあった。
「きっと根羽さんはそれぐらい包容力があるっていいたいのかもしれませんよ。私もなんとなくわかります」
「しょう! しょうだよ本多さんその通り! よくわかってるぅ」
「キャッ!」
そういって伊子が栞の隣について抱きついた。急なことで驚いていたけどその後は仲良さそうに話していた。
良かった。最初何か二人の距離感が微妙に思えたけど、これなら今後は上手くやれそうな気がする。
「……あのね。さっきお父さんがいたらって言ったけどあれは実は」
すると急に真顔になった伊子が呟いた。実は俺も過去形だったのが少し気になってはいた。
ただ、そこはズケズケと踏み込んでいいことじゃないと判断して特に聞くようなことはしなかった。
何となくだが栞も似たような考えだったんじゃないかと思う。
「私のお父さん、ひどい奴だったんだ。酒におぼれてギャンブル狂いで私やお母さんに暴力まで振るって本当に絵に書いたようなクズ親父。おかげでお母さんも……」
そう言った伊子の目に涙が浮かんでいた。栞がそっと彼女の頭を撫でていた。
酒が入っているからかついポロッと出てしまったのかもしれないな。その後の話で結局その父親は外で女を作って出ていき暫くは祖父母の家で一緒に暮らしていたが、大学に入ってからはアパートを借りて一人暮らしをしているんだとか。
そして少しでも祖父母の負担が減るようにうちでバイトしながら大学に通っているというわけか。
「はは、おかしいなこんな湿ったい空気にするつもりじゃなかったのに。ごめんねぇ~もっと楽しく呑みましょう~お~!」
結局その後は伊子もいつものノリに戻りお酒を呑み食事を食べた。とは言え次の日のこともあるからそれから少ししてお開きにして家路につくことにした。
二人ともお酒が入っていて心配だから帰りはタクシーにしておきなと伝え乗せた後、運転手にお金を渡した。
「そんな悪いですよ!」
「いいからいいから。あ、その変わり根羽ちゃんのこと宜しくね」
帰る頃には伊子はもう船を漕いでいたからな。帰り道は栞と方向が一緒なようなので任せることにした。
俺は歩いて帰れる距離だからな。さて夜風でも浴びながら帰宅するとしようか――
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