第17話 交渉成立
「そろそろいいか?」
ドアの向こうから役爺の声が聞こえてきた。こっちもちょうど話がまとまったところだったので古狸と話を合わせて役爺に戻ってきてもらう。
「話はとりあえずもうえぇかな?」
「えぇ。問題ないかと」
「せやな。でも、あんさんのそのしゃべりムズムズするねん。あんさん、本当はそんな口調ちゃうやろ? それならわいにも普通に喋ってや」
古狸が俺にそう言った。まぁ確かに多少は畏まった口調を意識したが嘘を見破れるとあってバレバレだったようだ。
「わかった。俺もこっちの方が楽だしな」
こうして随分と打ち解けた俺たちは改めて役爺を交えて話を再開させた。
「それでどうだ? 上手く取り引きできそうか?」
「バッチリでっせ。いやほんまええ取り引き相手を紹介してくれたなって思いまっせ」
役爺の質問に古狸が答えた。調子がいいなと思いつつ俺にとっても有り難かったなと再認識した。
自分の正体を知った上で、ダンジョンから手に入れたものと聞いた後でも取り引きしてくれるというのだから、古狸を紹介してくれた役爺には感謝しか無い。
もっとも役爺は、俺が持ってきたのがダンジョンから得たものだとしらないわけだが。
「金額はすくに出そうなのか?」
「そこだけは時間が欲しいところや。少々特殊なもんやさかいな。飛斗はんもえぇやろか?」
古狸が俺に問題ないか確認してきた。事情が事情だからそれは仕方ないだろう。
「俺は問題ないよ」
「そうか。なら俺からも予め言っておくが古狸が提示した金額から一割はうちで預かる。こっちも商売だからな。それで問題ないか?」
役爺が俺に確認してきた。紹介料というものなのだろう。俺としても世話になりっぱなしというわけにもいかないからな。
「はい。それでいいですよ」
「決まりだな。後は好きにしたらいいさ」
「良かった。今後とも宜しゅうな。他にもなんかええもんがあったら買い取るさかい」
役爺への支払いは問題ない。役爺もそれさえ守れば文句を言うつもりはなさそうだ。
古狸も満足げだが他にもか――
「そういえば本なんかも買い取ってもらえるのかい?」
「本、でっか?」
「あぁ。ちょっと待っててもらっていいかな」
俺はそう言って一旦ロッカーに戻り袋から本を取り出して戻り見せてみた。
「何やこのけったいな本は?」
俺から魔法書を受け取ると古狸がペラペラと捲り中身を確認した。
「――さっぱり読めへん。う~んこの文字は難解やな――」
そういいつつチラリと俺を見てきたので軽く頷いた。俺が元いた世界の本だと暗に示した形だ。
「お手上げやな。そもそもこの手の本は専門外や」
「ふむ。むしろ本ならうちで扱えばいいだろう。孫も本好きで古本を任せているんだからな」
役爺が本を指差しつつ意見してくれた。確かに本ならそのまま店で扱ってもらうのも手かもしれないが――
「ま、この手のが好きな客もおるかもな。どっちにしろこない読めへんもんこうたところでわいなんかは意味あれへんように思えるけどな」
古狸には俺が異世界から来たと説明してある。その上でこう言うということは、こっちで誰かに買われたところで問題ないだろうという意味なのだろう。
確かに向こうの文字を解読できるのがいるとも思えないし、これは役爺の言うように古書店側で扱ってもらうとするかな。
別にそのまま持っておくという手もあるけど俺には必要ないものだからな。処理できるものならした方がいい。
「わかったよ。それなら本多さんに見てもらうとしようかな」
「あぁそうしてくれ」
こうして俺たちの話は一旦終わりを告げた。古狸とは一旦品物を持ち帰って金額を算出してからまた来てくれるという話になった。
「ほな、わいはこれで。せや飛斗はん。よかったら今度一杯一緒にいきまひょや」
「え? あ、あぁそうか。わかったよ機会があったらな」
言葉を濁してはいるけど今のは今度ダンジョンに着いていくという話のことだろうな。
釘を刺すあたりかなり興味津々といった様子だ。ふぅ、戦利品を買い取ってもらえる相手ができたのは嬉しいけどう~んダンジョンについてはどうしようかな――
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