第18話 魔法書を見てもらう
ダンジョンについて迷いどころではあるが、とりあえず簡単そうなダンジョンを見つけた時に知らせておこうと思う。
古狸との話を終えた後、俺は元の仕事に戻った。
「悪いね仕事を任せちゃって」
店内に戻ってすぐ俺は伊子を労った。店長も絡んだことだったので、業務上問題はないし平日の昼間だからそんなにお客さんも多くないが。それでも暫くまかせっきりになってしまったからな。
「いいですよ~でも奥で何を話していたんですか?」
「ちょっと知り合いに頼まれた品物があってね。それを見てもらっていたんだ」
「へぇ~高価な品なんですか?」
見る限りやはりそんなにお客は多くない。余裕がある為か伊子が俺の話に興味を持ったようだった。
「どうかな。そんなに期待はしてないよ」
「そうなんですかぁ。ちぇ、高値で買い取ってもらえたならご飯でも奢ってもらおうと思ったのに~」
「はは。どっちにしろ知り合いのだしね」
知り合いのというのは嘘なんだが、あまり広まって欲しい話でもないからごまかした。
「でも、別にお金関係なく一緒に食事に行っても――」
「飛斗さん。店長から聞いたのですが何か変わった本があるとか?」
伊子が何かいいかけたけど、そこで栞に声を掛けられた。
「ごめん。ちょっと……」
「むぅ、もういいですよ~だ」
プクッと伊子が頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。何か機嫌を損なう事を言っちゃったかな?
「ごめんね。じゃあ――」
伊子からは後で改めて話を聞くとして栞と一緒に古書のコーナーに向かった。
「これがその本です」
俺は魔法の書を持ってきてそれをカウンターに置いた。すると栞は目を輝かせて魔法書を手に取ったよ。
「凄い――このような本、始めてみました! 装丁もどこか古めかしいのだけどそれでいて厳格な雰囲気も漂っていて……あの、中を確認しても?」
「かまわないよ」
文字は読めないだろうなと思いつつも許可を出した。すぐさま彼女は本を捲りだし真剣な眼差しで視線を動かしていく。
「何か複雑な文字ですね。英語でもないですしフランス語やドイツ語でもない……古代の文字でしょうか? 私も本が好きで様々な語学を勉強したつもりですが全く知らない文字です」
だよねぇと俺は思った。何せ俺がいた世界の言葉だ。日本で生まれ育った彼女がわかるわけもなく、また地球上の文字でも当てはまるものはないだろう。
「売れそうかな?」
「う~んどうかな? でもこの手の謎めいた本が好きなコレクターもいるし、ただごめんなさいそんなに高い値はつけられないかも……」
それが栞の答えだった。ただこのまま黙ってしまっておくぐらいなら引き取ってもらったほうがいいな。
例えもの好きが買っていったとしても読めなければ意味がないし。
「かまわないよ。どっちにしろ置ける場所もないし幾らでもいいから買い取ってくれるなら助かる」
「そう、ですね。それじゃあ……」
そこで栞が提示してくれた金額は一万円だった。一冊二千円ということか。思ったより高くて驚いたよ。
「むしろこんなにいいの?」
「は、はい。その一冊は私が買ってみようと思ってそれも込みです」
なんと彼女が一冊購入するつもりなのか。本が好きそうだし珍しいからこそ読んでみたいということなのだろうか。
とにかく俺は持っている魔法書を全て買い取ってもらった。栞はその中から適当に一冊自分用に抜き残りは本棚に並ぶようだ。
ま、これだけ他に大量の本が並んでいる状況で、残りたった四冊の魔法書を見つけるお客がどれだけいるかって話でもあるか。
さて、栞に本を買い取って貰った後は俺も業務に戻った。不機嫌だった伊子に話を聞こうと思ったけど、この時間からお客も増えてきたからそれどころじゃなかったな。
仕方ない仕事優先だし時間が出来たら話しかけてみようかな――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます