第16話 素性を明かす
俺は古狸に自分の素性を明かすことにした。もっとも概要としては異世界から来たことぐらいだ。
四天王でお荷物扱いだったのは流石にちょっと恥ずかしかったので言わなかったけどな。敢えて教えることもないだろうし。
「ふむふむ。そうなんでっか。いやはやしかし驚きやな。まさか異世界から来たとは予想の斜め上を行く話や」
古狸は俺から話を聞くと深く頷き理解を示してくれた。少しは疑われるかと思ったが思いのほか素直に受け取ってくれたようで安堵した。
「信じてくれたなら嬉しいですが、自分で言うのもなんですが大分突拍子のない話ですよね?」
「せやな。せやけどな、最初に言うたやろ? わい相手が嘘を言うとったらなんとなしにわかんねん。あんさんの話を聞いてる時にそらなかったさかい信じるんや」
それが古狸の答えだった。どうやら嘘を見抜く力に偽りはなかったようだ。
「その嘘を見破るというのは妖の力によるもので?」
「それもあるなぁ。まぁわいの経験則によるとこもおおきいけどな」
なるほど。そこは商人としての勘というものかもしれない。商人の勘が鋭いのは元の世界でも一緒だったからな。
「それにしてもあんさんの言う魔力いうのには興味あるな。霊力に近いんやろ? それがあるさかい尻尾が見えとったわけやし」
古狸には異世界には魔法があったことと、魔法の行使には魔力が必要だったことも伝えた。
おかげで随分と興味を持たれてしまった。
「でもこっちにも魔法の話はありますよね」
「あぁ西洋魔術やなんやがあるけどな。あっちはあっちであんさんの思てるのとち~とちゃうかもしらへんで」
古狸はこちらの世界について妖視点からの話も色々と聞かせてくれた。これはこれで参考になる。
「せやけどなぁ。あんさんが持ってきてくれたこれ、ダンジョンで手に入れたんやったか? そんなもんが何でこっちに出現したんやろな?」
古狸が小首を傾げた。だがその疑問は俺自身も感じていることだ。
「それは俺にもわからないんですよ。ただ放置しておくわけにもいかないんで処理してます」
「そらそうやろな。あんさんの話を聞いてると野放しにするには危険そうや。せやけどそのダンジョン気になるで。一度一緒についていってもえぇか?」
古狸が唐突に俺のダンジョン探索に付き合いたいと言い出した。尻尾が揺れていて凄く期待してそうだ。
ただ流石にダンジョンにつれていくというのはな。
「ちょっと厳しいかなと思う。ダンジョンは魔物も現れるしとても危険なんだ。そんな危ないところにつれていくわけにはいかないよ」
「はは、言うたやろ? わいは妖。普通の人間とはちゃうし霊力も使える。ただの商人と侮られたら困るで」
どうやら古狸は危険と諭した程度で諦めるタイプではなかったようだ。
それどころか逆に興味が湧いているようにも思える。妖というだけあって荒事にもなれているのだろうか。
「戦闘に自信があるのかい?」
「せやな。血の気の多い狩人もおるしな。そういう連中相手にやりあったこともあるさかいな」
それは少し気になる内容だな。
「狩人というのは?」
「わいらみたいな人とちゃうのを狩りたがる連中や。妖狩りと名乗ってる連中でな」
古狸が俺に説明してくれた。顔を顰め口調も刺々しさがあった。どうやらその妖狩りというのはあまり歓迎されてない連中なようだな。
「妖にも人に迷惑ばっか掛ける困った奴らもおってな。その手のを狙うのはわいとしては構わんやけど、妖と見たら襲うてくるあほもおんねん」
これが嫌悪感が垣間見えた理由か。話を聞く限り古狸は人間に危害を及ぼすようなタイプに見えない。
あの役爺とも仲良くしているぐらいだしな。だけどそんな事情も関係なしに襲ってこられたらそれは迷惑だろう。
「あんさんもその手の連中には気ぃつけなあかんで。見た目は人やけどちゃう世界から来たちゅうだけで危険人物思われる可能性があるさかいなぁ」
古狸から釘を打たれた。もっともよく考えてみれば俺だってそういう面倒事を避けるために本当の事を明かしてなかったわけだしな。
今後も気をつける必要があるのは確かだろう。
「ご忠告どうも。心に留めておくよ」
「せやな。十分きぃつけや。そんじゃま、機会があればわいもダンジョンに付き合うちゅうことで」
「いや、それとこれとは別な話だぞ」
「大丈夫やいけるやろ。それにこっちも商売や。あんはんが持ってくる品の出処ぐらいしっかりチェックしとく必要があんねん。悪いようにはせぇへんさかい」
そんなこんなでちょっとした押し問答もあったが結局試しに連れて行ってみて危険だと判断したら帰ってもらうという話で落ち着いたわけだが――
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