お客様は……クレーマー!?




「あぁ、今日は曇天どんてんですね」

 何となく、何となくですけど、尻尾がチリチリします。

 こういう日は、嫌な事が有るのですよね。

 経験上、いわれの無い苦情とか、理不尽な要求とかされたりする事が多いのです。

 お客様に。



『ちょっと!この前買った本が納得いかないんだけど!』

 えぇと、それは私に言われましても……。


「私も全ての本の内容を記憶している訳ではありませんので、御自分で選んでいただいたはずなのですが」

 来店した途端に文句を言ってきたこの方は、弁財天様です。

 えぇ、商売繁盛、子孫繁栄、恋愛成就に交通安全。

 とても御利益の盛り沢山の神様です。


 うちの常連客で、その中でもかなりな上位神ですね。


『何なの!?何で浮気した旦那と元サヤなの?有り得ないでしょ!』

 いや、知りませんがね。

『スッキリしたくて買ったのに、モヤモヤが残ったわよ!』

 いや、本当に勘弁してください。

 恋愛小説の中身など知らないし、たとえ知っていたとしても最後まで話してしまったらそれはそれで怒るのでしょう?


「毎回、あらすじを読んで決めるのはお客様御本人ですよね?」

 ニッコリと営業用の笑顔を向ける。

『解ってるわよ!だから罰を当てたりしないでしょ』

 ただ単に愚痴を言いたいだけですよね。

 知ってます。


 だって毎回の事ですから。


 ハッピーエンドだと、それはそれで『何で他人の甘い恋愛読まなきゃいけないのよ!』と言い、悲恋だと『読んで暗い気持ちになったわよ!』と文句を言う。

 それならば恋愛小説は止めれば良いのでは?と提案した事が有るのですが、それ以外の本に興味が湧かないそうです。


 結局は、恋愛話が好きなのでしょうね。


『ねぇ、あれないの?最近流行りの悪役令嬢?のざまぁって言うの?』

 最近は大分下火ですけどね。

 店内の恋愛小説置き場へ行き、売れ筋の数冊を手に戻る。


「こちらが売れ筋です。毎回言いますけど、内容は私は知りませんからね。あらすじを読んで、御自分で選んでください」

 毎回同じ事を前置きしてから本を渡してるのですが、聞き流されてますね。

 毎回言うから駄目なのでしょうか。


 全てのあらすじを読んでから、弁財天様は1冊の本を選びました。

『ありがとう。では、今回は技芸上達にしてあげるわね』

 キラキラを振り撒いて去って行く姿は、とても神々しく感じました。


 でも、本屋の店主に技芸上達は要らないですよね?



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