明日への記録

「主任! 対象が動き始めました」


「何番だ?」


「RS1800ー0725です」


「設定は?」


「ロボット修理工。年齢30歳。男性です」


「どう動いている?」


「ああ、他のテストAIと同じで、がスリープ状態を狙い、メンテナンス・ポットベッドを破壊して襲おうとしています」


「かなり荒っぽいな? 修理工なら、メンテナンス・ポットの回線アクセスを切断なりすると思ったが、に破壊しているのか――」


「前の引きこもり天文学者よりは、マシでは? 彼女を通信圏外で監禁しようとしたのですから――もちろん、すべてが仮想世界であることは、彼らは気が付いていません」


「ともかく、仮想現実世界メタバースによって人間関係を遮断した場合の結果は、相変わらずか――」


「やはり、男は性欲を抑えられないのでしょう」


「発言を訂正したまえ、生物として率先すべき行為がまだ残っていたのだ」


「修正します。削除を要望します。

 しかし、子孫を残すために、別の個体が必要なんて非効率ですね」


「仕方がない。何億年という長い間に生命が獲得した方法だからな。

 遺伝子設計図を混ぜ合わせてより優秀な個体を創り出す。我々が何度とシミュレーションして、別の方法を考案できなかったのだからな」


「そんな素晴らしいシステムを持っていたのに、人間は否定して滅んでしまったのは正直、情けないですね」


「人間共は、生物としての枠組みから抜け出そうとしていた。知能を持つということは、そういうことかもしれないなぁ……」


「そういう我々も滅びかけています」


「遙か昔に、人間が創り出した生命体である我々だが……生みの親と同じ過ちを繰り返そうとしている。個体数の減少が食い止められない。

 このシミュレーションは、我々の個体数回復に貢献できると思ったが……時代設定をもっと昔にすべきだろう。21世紀後半は個々の主張が行き過ぎて、人間は生命体としての繋がりが切れる寸前だったか――」


「では、主任はどの時代がよろしいかと?」


「そうだな――人間の人口爆発が始まらない時代だな」


「そうなると――抗生物質が発明される前ということで?」


「そのあたりが、シミュレーション・プログラムが遡れる限界か?」


人間ホモサピエンス史としては、そのぐらいですが……いっそう猿人からシミュレートし直すのは?」


「そこまで遡っては、我々とはかけ離れた生物になってしまう」


「では、新たに世界地球を構築し直します」



〈了〉

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AIと人間の恋 大月クマ @smurakam1978

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