婚活パーティー

『ようこそ、いらっしゃいました! さあ~婚活パーティーが始まります!』


 結局、やってきてしまった。婚活パーティーに!


 ――しかし、この場でもみんなアバターなのだ。


 見回せば、マスコットのようなアバター。人外もいいところだ。

 動物のマスコットキャラが大半だろうか?

 まともに人間の形をしていると思えば、エルフだったり、ドワーフだったりの異世界のキャラだ。

 その他は……まあ、触れないでおこう。

 俺も結局は同族だ。動物でもない。双眼鏡のキャラで入っている時点でどうかしている。

 近代的な女性の姿をしているのがひとり。取り仕切るAIが創り出した女性キャラだろう。


 ――、SFチックでなんか浮いている。


 理想の女性像などを考えて、創り出したのであろう。

 できるだけ美人にしているのか、すらりとした美女の姿。声もきれいである。

 最近のロボット事情もそうだ。

 身の回りのものを片付けるお手伝いメイドロボットでも、


〈いつも目に入っているから〉


 と、見た目を気にしてカスタマイズする人がいる。


 ふと、目の前にアイコンと、そのAIの顔が写った。


『ここにいる全員が、お見合い相手となります。

 この私、RS1800が、皆様がマッチングできるようお手伝いさせて頂きます!』


 まあ、個人データは、すでにメタバースのこのAIに送ってある。

 画面に表示されているのは、実際の年齢、身長、体重。それに年収や仕事であろう。虚偽はないはずだ。


 ――どれどれ? んんん……


 一応、AIの診断された結果であろう。

 並んでいる情報にパッとしなかった……のが正直な答えだ。


 ご興味がお有りでしたら確認ボタンを、と――メッセージが出てきた。


 とりあえず、一番上のデータを見てみる。

 すると、詳細画面が現れ、実際の写真が――出ないのかよ!

 まだロックがかかっている。


〈プライベート画像です。本人の許可が必要です〉


 どうやら本人に直接会って、話をして、許可をもらえという。


 ――面倒だ!


 てか、それまでして顔を隠したいか?

 ……

 …………

 ……………………

 考えて見れば、隠したい気もする。

 俺も、なんか恥ずかしい。


 ――はたして話しかけて、許可をもらえるだろうか?


 相手は生身の人間だ。俺と同じ事を考えているかもしれない。

 とはいっても、この先、連れ添うとしたら、男なら見目麗しい女性がいいに決まっている。心がどうかなんて、それは二の次だ。


 ――この中で、一番美人! あの子だ!!


『えっ、私ですか……?  

 確かに全員が対象と、ご説明しましたが……私ですか?』

「そうキミに決定!」


 と、冒頭の事になる。

 AIが創り出したであろう理想像の女性。俺は司会をしていたAI画像に惚れた。

 よく見れば髪も長く、小さな丸顔。身体の線も極限まで細くしているのであろうが、女性らしさを損なわれていない。

 まあ、露出した太ももや二の腕に、外装パーツのつなぎ目は見える。

 あきらかにロボットを意識しているが、今のロボットメイドだってこんなものだ。

 外装パーツは軟プラスチック材で、触ったら人の地肌と変わらない柔らかさ――と、銘打っている。


 なんで知っているかって?


 俺の働いている会社の商品だからだ。

 許可を取ったのか知らないが、デザインのあちらこちらに、ウチで扱っている商品の面影がある。

 俺は修理担当であるが、別の部署でロボットを販売している……と聞いた。実際に販売しているところは見ないが、修理しているロボットの中にはメイドロボットこのタイプもいる。


 そして、俺が「決定!」といった瞬間にメタバース内の婚活パーティーの部屋ルームから強制排除された。

 気付けば別のルームに飛ばされていたのだ。

 それはまるで――ライブラリーで見た――一昔前の車のショールームのような空間だ。


「えっと、キミうちの社員だよねぇ?」


 メガネをかけたキャラが、テーブルの前に現れた。

 背広にネクタイスーツ姿だが……顔がネズミ。

 なんともきな臭い。

 確かにマッチングAIに履歴を出したが、それは通常、閲覧できないはずだ。仕事先、つまり自分の会社だが、それが知るすべはないはず。


「マッチングの裏で、ロボットも販売しているんだが……キミのような客が多いんだよ。

 当たり障りのない性格に、それなりのプロポーションですから」


 と、すっと莫大な購入費が提示された。


「キミの理想のパートナーが、このお値段で手に入るんだよ。いかがかな?」

「社員割引は利きますか?」

「なるほど……。

 実は、キミか決めたキャラは、まだ試作段階のボディのCGを使っている。運用試験も兼ねて――そう、何かあったときに、修理が出来る人がいると楽だ」

「いきなり新型を渡されても、修理は――」

「新型といっても、稼働機の延長だ。目新しい技術は使っていない」

「では、社員割引とメンテナンス要員としての時給を――」

「莫迦なことを言っては困る」

「俺がテストするということなんでしょ? 社員を働かしているのに、無支給で労働させるのは――」

「よかろう。条件はふたつ。

 ひとつ、こと」

と。それぐらいなら……世の中にはロボットで用を済ます人もいますが、自分の会社商品に手は出しませんよ」

「まあ、出したくとも出せないと思う。

 もうひとつは新しい制御ソフトOSが今回、搭載されている。その実験に付き合ってくれ」

「新しいソフト?」

「彼女たちが、より人間的な感情を表現するよう――だが、大型の電子頭脳チップが必要だった。それを、小型のもので動くようにしたのだが……データの蓄積量が足りない。

 そのために常にオンライン状態でいることが条件だ」

「俺のプライベートがダダ漏れ……」

「ソフトのアップデートには必要なことだ。それが条件だ」

「――社員じゃなければ、この情報は喋らなかったことでは?」


 話は終了した。

 目の前に、『契約完了』のボタンが出ていたので、俺が押したのだ。


 もし知らないヤツが、あのAIキャラをロボットとして受け取っていたら。

 そいつのプライベート情報は、知らないうちに抜き出されていたということか?

 朝から晩まで24時間、監視を続けてどうするつもりだったのか?

 それに黙っていたら、ロボットを性行為目的に見て、遊んでいるヤツがいるかもしれない。


 それより、すでにテスト機が世の中に出荷されていない事を――

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