愛でる瞳

『これなどは、人間のお客にはいかがですか?』

 俺は乗っ取られたグリッドに導かれるように、奥へと進んでいった。その間にも人間だった剥製が並んでいる。

 顔を見れば行方不明の届けが出ているもの達だ。リストで見たことがある。

 よく見ればその四方八方にカメラが備え付けられていた。ある意味、淫猥に見えるが、すべてが死体だ。


 ――人間を愛でるため……悪趣味だ。気分が悪くなる。


「この子は――」

『中々、素材を大変でした。それなりに有名人ですからね』

 紹介されたのは、数ヶ月前からテレビから突然姿を消したアイドルだった。

 化粧はしていなくても目鼻筋は美しく、身体に至ってはやはり魅了されるふくよかな胸。くびれた腰に、膨らんだ臀部。すらりと肢体も伸びて美しい。

 それが一糸まとわない姿でされている。

『ただ、我々ロボットなどのお客にはあまり人気が無い』

「人気が無いだと?」

『そうです。私もよく解りません。このように加工するまでに細心の注意も払いました。有名人ですからね。代えが利きません。しかし、私の興味はそちらの横の一般市民。でるに至っては、こちらの女性の方がよろしいと感じています』

 そういわれた方の死体を見た。

 若い女性だ。化粧気はないが確かに美しい。少々幼い気もするし、身長は低め、身体の起伏もそれほどない。だが、愛くるしい感じはする。

「人間を見るだけだからではないのか」

『あなたも見たでしょう。ズッとカメラを設置して……

 で続けていて、『恋』というものが解りはじめてきました。

 寝ても覚めてもその人が頭から離れず、他のことが手につかなくなり、身悶えしたくなるような心の状態……私はこの人間をよく見ています。他のコレクションと違い。これは恋なんでしようか?』

「いや、そんなものは恋ではない! 犯罪だ」

 AIにこのように指示をした異常者がいるはずだ。

 その昔、人体をコレクションして楽しんだ事件があった。必要に写真を撮り、コレクションをしていた。しかし、それでは物足りなさを感じてか、女性を誘拐し殺害した犯罪者がいた。

 このグリッドを乗っ取っているAIのその向こう側に、必ず生身の犯人がいるはずだ。

 なんとしても捕まえ、この異常行為を止めなければ!

『なるほど。貴方の脈拍等を観察していましたが、私のことを疑っている。

 例えば……誰か人間がいるのではないかと――』

「……」

『片方の頬が引きつりました。この警察ロボットのデータから、貴方が焦るときには、頬が引きつるとあります。残念なことを2つ、お伝えしましょう』

「……何をだ」

『ひとつは、私は男が嫌いです。愛でていても、興味はあまり持ちませんでした。

 そちらに並んでいる男性達は、女性のコレクションが増えれば場所を取りますので廃棄したいと思っています』

「もっ、もののように扱うな!」

 俺は怒りを覚えた。だが、急に呂律が回らなくなってくる。立っていられない。

『あっ、すみません。2つと言っていましたが、3つありました。

 先程、貴方が連れてきたカソード刑事ですか……私のコレクションに加えたい』

「かっ、勝手なことは……」

 すでに俺は床に倒れ込み、気が遠くなりはじめていた。それでもなんとか声を絞り出す。

『それから、最後の3つ目。

 この部屋には一酸化炭素が散布してあります。そんなところで寝ていると、一酸化炭素中毒で……もう聞こえませんか?』



〈了〉

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