私設美術館

 カソード刑事が運転する車が着いた。

「ここですか?」

 俺達が着いたのは、高級住宅街の一角。立派な洋館だ。

『なんですか!? 貴女達は! ここはロボット専用の美術館ですよ』

 俺達を見かけたのか、人間型のロボットが血相を変えて飛んできた。どうやら受付でもしているようだ。私設美術館であるから、そちら側が客を選んでいるようだ。

「警察です。家宅捜索の令状も取ってあります」

 カソード刑事は携帯端末をわざわざ、受付ロボットに見せつける。


 ――端末を見せつけなくても、データを叩き送りつければいいものの。


『ここはロボット専用です。法律により、人間は――』

「悪いなぁ、裁判所からも許可を取ってあるから通らせてもらうよ」

 俺は、カソードと受付ロボットを押しのけて中に入った。グリッドを連れて。


 中に入ると明かりが付いていない。

「グリッド! 明かりを付けてくれ」

『お待ちを……ただいまシステムにアクセス中――点きました!』

 淡い間接照明が展示品を照らしはじめる。だが、外の光の為に目が慣れていない。何が展示されているのか――

「うッ、これは!?」

 カソード刑事が、後からやってきたようだ。だが、彼女は目がすぐになれたのか、展示品の異様さに口を押さえた。そして、耐えきれないとばかりに外に飛び出して、吐いている。


 ――何が展示されているというのか。


 ようやく俺の目も慣れてきた。遅れたのは歳だろうか。

 そして、現れたのは――

「人形? 蝋人形か?」

 それは人の形をしていた。すぐには理解できなかった。一糸まとわぬ裸体が並んでいる。

 向かって、右は男性。左側は女性だ。

『人形ではない』

 ふと、足下で声が聞こえた。

 それは俺の相棒であるグリッドであった。だが、いつもの声色が違う。

「誰だ。グリッドを乗っ取ったのか?」

『君に聞こえるように、少々この身体を借りた』

 俺の失敗だ。先程、明かりを点けるように、グリッドへここのコンピュータにアクセスするよう命じた。俺は警察ロボットのセキュリティを、甘く見すぎていたようだ。誰だかわからない。恐らくこの美術館の管理人AIか。アクセスしたときに、難なくグリッドのセキュリティを突破し、逆に乗っ取ってしまったようだ。

 そして、グリッドはこの美術館の案内役のような素振りをする。

『これは私のコレクションだ』

 ひとつの人型の前に移動した。

 見上げると、成人したばかりの女性の姿をしている。


 ――よくできた。蝋人形……いや違う?


 よく見ると首にあるニキビの跡が、不自然なほどリアルだ。皮膚の毛穴はランダムに加工されているし、髪の生え際などまさに生えているようだ。

『ここまでの作品を作るのには、少々時間が掛かった』

「少々?」

『プラスティネーション。これが現段階で一番、愛でるのに適していると考えたからだ』

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