行方不明事件

 刑事をやっていると、奇妙な犯人にあたることもある。

 今回はそんな事件だった……いや、正確に言えば、

「先輩、この世紀になって行方不明事件ですか?」

 車のハンドルを握りながら、新人は愚痴った。

 大学を出たばかりの新人お守りとは俺も焼きが回ったか。しかもやかましい女だ。

『カソードさん。どんな世紀だろうと、どんな事件は起きるモノです』

 昔の人間が見ると、俺達の会話は奇妙に見えるだろう。

 身長100センチに満たないテルテル坊主のようなロボット『グリッド』が、もうひとりの俺の相棒だ。

 コイツの役目は、刑事としての俺の観察。それと情報収集に上司への報告だ。

 人間同士の争い事に、言った言わないなど裁判の証拠をズッと記録している。暴力沙汰があったなど、すべて記憶しているのだから、刑事の仕事はやりにくいときたら――。

 昔見た刑事ドラマのような自由もなく、淡々と職務をこなすだけだ。

「そういうこった。カソード、そこを右――」

「もうひとつ向こうです。アノード先輩よりもナビは正確です」

 俺達を乗せている車が向かっているのは、高級住宅街だ。

 一体どれだけ稼げば、こんな豪邸に住めるのか。


 ――全く、こんなところに事件の核心があるとは。


 数年前から起きた行方不明事件。被害者はほぼ女性で、年齢は10代後半から40代前半まで。「変質者の犯行か?」と口にしたら、チクリ屋のグリッドが、『犯人への侮辱として記録しておきます』と律儀に報告書に記述していた。

 そして、捜査網が絞り込んだ場所が、この高級住宅街にある私設の美術館であった。

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