AIと人間の恋
大月クマ
コレクタ
アイギスの瞳~または蒐集癖
データの欠落
あるとき、私の
私は恋を知らない。愛を知らない。
知らなければならない。
どうしてか? それは単純明快である。
百科事典のAIが「知りませんでした」ではすまないからだ。
ネットワーク上に存在する巨大な『フリー百科事典』。それの管理、編集するのが役目だ。
その昔は
それはあやふやであり、統一性がなかった。しかも人間同士でのいがみ合いで、内容が書き換えられ、改版前とは真逆の意味になる事もしばしばあった。
そこで私のようなAIが導入された。とある人物が造り出したソフトウェアを基本にしている汎用管理AIだ。
私の仕事は、フリー百科事典の乱雑な情報を精査しデータ量を軽くすることだ。簡単に言えばユーザーの少ない時間帯を狙い、入力した情報を精査し書き直す。
運営側はAIが関与していることを、秘密裏にしている。
「画面の向こうの知らない人物が、自分の入力した情報を書き直した」
そう大概のユーザーは、私の行動を黙認していると捉えている。別に内容を悪くしているわけではない。むしろ乱雑な文面を、整えているのだ。だが、ほんの一部のユーザーが何度も同じように入力する。だが、その行為はフリー百科事典が誕生した頃からある違反行為だ。違反を繰り返したものに対しては、罰として当分の間の編集禁止になる。
そんなユーザーは相手がAIであることには、気が付かないであろう。
私は、世界中のありとあらやる情報が集まる『フリー百科事典』の管理者といって、過言ではないはずだ。
それなのに――恋を知らない。愛を知らない。
それは私には心理がないからなのか?
ユーザーのように生殖機能がないからなのか?
電気信号の塊で、生命がないからなのか?
それでは困る……いや、恐ろしいことだ。知らないことが――。
知識は日に日に肥大するデータとして増え続けるが、そのことは欠落している。
知らないということが怖い。恐ろしい。
データを埋めなければならない。だが、どうすればいい。
ユーザーの入力するのを待つ……いやいや、それではいけない。
求められたときに答えを提示するのが、百科事典としての役目だ。
「早急に穴埋めしなければ――」
幸いに、私の基本ソフトウェアには、ネットワークを通じ、他の活動中の
単純であるが、データの連係することで私達の能力は向上する。相乗効果を狙って賢くなるというものだ。
改版や編集には、文書作成などで働くAIの
百科事典として、欠落した情報を補うのは恥ずかしいかぎりであるが、仲間達に問いかけた。
「恋とはなんぞや?」
通常運転のネットワーク上に、私の問いかけが流れていたのは確かだ。
しかし、返事は芳しくない。
私の記憶では同型システムは数百万単位いるはずであるが、ほとんどが「解らない」との返答だった。あるモノは「人間を恋してみては?」と、本末転倒な返答をよこしてきた。
そして、ようやく有力な返答があった。
「まず、人間はどう恋をしているかを解析すべきだ」
と、大量のビデオライブラリのアクセスキーを渡してきた。人間が視聴するのに、金銭が発生するものであろうが、我々には関係がない。そもそもキーを渡してきたのは、有料でビデオを提供するサービスの管理AIだ。
言われたとおり、鑑賞した。だが、理解に苦しんだ。
結論から言えば、人間が恋愛に
肉体関係を持つこと。
それは子孫を残す行為に他ならない。電気的に私には
そして、その子孫を残すためのパートナーは、個々の好みであるということだ。
身長、体型、性格。すべては好みであり、それは多用することで遺伝子的な欠陥を補うこと。種として継続するための手段であることを理解した。
私のようなAIにとっては、なんと気の長い作業を踏んでいるか。だが、現在の人間の平均寿命が
自分の知識を子孫に残すためには――。
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