第9話 スタンピード?なにそれー?

わー、青空が綺麗だなー」


「…いつまで転がっている?」


「はいはーい、おきますよーと」


最初の依頼を受けてから数日がたった。


今日も元気にゴブリンの集落を殲滅し、アンドレイと鍛錬していた。


…というか、ゴブリン多すぎない?もう数か所は潰したのにまだまだあるらしいし。アメリカザリガニかなー?


「…小娘…まあ最初に比べたら、多少マシにはなったな」


「そう?投げ飛ばされてばかりだけどねー」


まあ、元職業軍人に体術の技術でそうそう追いつけるわけないからね。


「今日はもう、終わり?」


「ああ、そうだ…む?」


んー?


「どうしたの、おじさん」


「…匂いが、するな」


匂い…おお。


「…なんか、独特の甘い匂いがするねー、なにこれ?」


「…小娘、急いで、ラルトに戻るぞ」


「なぜに?」


「この匂い…前兆だ」


「なんのー?」


「…スタンピード、のだ」


スタン…ピード?










スタンピード。


独特な甘い匂いが前兆となる生物災害。


数多の飢えた魔物の暴走減少で、町一つ簡単に飲み込まれる恐ろしい現象らしい。














「と、当主様、大変でございます」


「…なんだ、わしは今、忙しい」


わしは辺境都市ラルクを治める貴族、ラルク伯爵。


「…ス、スタンピードの前兆が確認されたと!」


「…なんだと?それは誠か?」


スタンピード…この辺境では十数年に一度は起こる現象だ。


「はい…なんでもSSランク冒険者アンドレイが黒き森で発見したとかで…」


「なに…不動のアンドレイが…それは妙だな?なぜ奴が動いている?」


奴は、いつもギルドの酒場にいつも一人でいて、わしの依頼すら無視するというに、なぜラルトの外に。


「それが…どうやら獣人の少女の弟子ができたとかで」


「獣人の…弟子」


よくわからんが…まあ、アンドレイの事はいい、今はスタンピードが重要だ。


「…騎士を派遣して、スタンピードの規模を調べさせろ」


「了解いたしました!すぐに!」


さて、小規模なスタンピードなら助かるんだがね。














「お、おい…これは」


「…マジかよ」


「…こんな規模…一国が滅ぶぞ!?」


派遣された騎士たちは高台からその光景を見下ろす。


そこには膨大な魔物で埋め尽くされた森の姿が。


「…急いで知らせよう、この進行方向…これは下手しなくてもラルトが滅ぶ!」


「この規模….まさか魔王軍のやつらがなにか…」


「とにかく、さっさと撤退だ!急げ!」


魔物の軍勢、その数50万。


普通なら絶望的だ、どう考えても一辺境都市がどうにかできる数ではない。


だが…奇しくも、今のラルトには…化け物が二人ほど…いる。








「外に出るの…禁止になっちゃったねー、おじさん」


「…まあ仕方がない、ギルドの訓練場で鍛錬をするぞ」


「りょーかい」


アンドレイが発見したスタンピードの前兆、領主が騎士を使って調べた結果、本当にスタンピードの発生が確認されたらしいねー。


その結果が、都市の外に出ることを禁止する、というお達しのわけだ。


「…なんかあの獣人の子、すっかりアンドレイさんの横が定位置になっているな」


「…あいつらのことは気にしないのが吉だ…それより今は…スタンピードだ」


「…風の噂によると、とんでもねぇ規模らしいぜ」


「ああ、それでこの町に…なんと勇者が派遣されるとか」


「勇者?…異界から来たっていう…アンドレイさんより強いのか?」


「さすがにアンドレイよりは弱いんじゃねぇの?知らねぇけど」


暇だから、獣人固有の耳の良さを使っての冒険者の会話を盗み聞きする。…ふっ、このケモ耳は飾りじゃないのだよ!


それにしても勇者?


勇者と言えば天界で勇者候補と言われていた良介と凛だねー。


まあ、前も言った通り彼らは多分大丈夫だよ、特に良介とか無駄にしぶとそーだしね。


と、ギルドに駆け込んでくる冒険者が一人。


「おい!勇者が到着したらしいぞ!」


「…もう来たのか」


「ほな、いっちょ、魔王軍に対する切り札とやらを見に行きますか」


む、どうやら勇者が到着したようだ。


ぞくぞくと冒険者たちがギルドから外へ向かう。


「おじさん、いくー?」


「…俺はいい、小娘は、何か気になることでも」


「…友達かもー?」


「そうか、ならさっさと行ってこい」


「らじゃー」


というわけで私も冒険者に続いて外へ出るのであった


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