第64話 死灰復燃
それは奇跡か、それとも人間の勇気がもたらした必然か。
立花幸の乱入はその場の人間たちの運命を大きく変えた。
「幸くん!? なんでここに……」
「えっ、誠人さんですか!?」
「知ってて来たんじゃないの!?」
「いえ、僕も戦闘中だったんで……夢中でこのビルに蹴り飛ばしたんですよ。」
「蹴り飛ばした……? じゃあ、さっき飛んできたのは……」
「ヴォルキアです。あいつが動き回るせいで巻き込んじゃいました。すみません。」
「……いや、助かったよ。本当に。もし君が来てなかったら俺たち全滅してただろうし。」
「ムルカ、ですか。」
「うん、でも大丈夫。作戦はある。ムルカを吹っ飛ばしてくれたおかげで時間も出来た。皆さん、最上階へ! 急いで!」
誠人は隊員たちへ呼びかけ、最上階に向かうよう指示を出す。
「僕は出来る限り時間を稼ぎます。」
「……ありがとう。でも無理に止めようとしなくていいからね。」
「はい。誠人さんたちも頑張ってください。」
「……うん、勝つよ。」
そう言って誠人も階段を駆け上っていった。
(……それにしても幸くん、傷一つついていなかったな。レイさんの話ではヴォルキアは騎士団の中でも最上位に位置するほどの強敵のはず……侮っているわけじゃないけど、今の幸くんにはそこまでの力がついてるってことなのか?)
疑問を抱きながらも今考えるべきことではないと誠人は判断した。
これより、5分ほど時を遡る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ここまで興が乗ったのはずいぶんと久しい。」
渋谷の町中、静かに雨が降り始めていた。
「楽しかったよ、立花幸。君には心からの敬意と感謝を送ろう。」
雨音が二人の男を包んでいく。
一人は満足げに佇み、もう一人は道に倒れ伏していた。
そこには右胸を貫かれた立花幸の姿があった。
「……もう少し、楽しめたかもな。だが許せ。そして誇れ。君が手加減することを許さなかったのだ。」
くり抜かれたような胸の穴、生気を感じない表情、微動だにしない肉体。
彼を包む全ての要素がその命の終わりを告げていた。
(これでもうこの世界に用はない。あとは雑兵どもに任せるとしよう。また、長い退屈が始まりそうだ。)
ヴォルキアは己の快楽のみをひたすらに追求する。
そして、その快楽が強敵との戦闘でしか得られないものであるということをヴォルキアは既に悟っていた。
しかし、ヴォルキアは強すぎた。
彼の相手が務まる者など歴史上でもごくわずかにしか存在しない。またそのような強者たちでさえもヴォルキアを十分に満足させることは困難だった。
加速する闘争本能、狂気じみた戦闘への飢え。
次第に相手はついていくことすら不可能となる。そうして相手を壊したのち、ヴォルキアは更なる強者を求め、長い長い退屈と共にひたすらに世界をさまよう。
その旅の中、ヴォルキアが巡り合った中で好敵手と呼べる相手は今までに二人しかいなかった。
(……魔力が薄い。やはりこの世界に期待するべきではなかったか。終わってみれば何とも儚い。英雄の名に少々はしゃぎすぎ────)
今日、このときまでは。
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