第54話 電光雷轟
「久しい……ね。初対面のはずなんですが。」
軽口を叩きながらも幸は臨戦態勢を解くことなく、次の一手を考えていた。
(こいつがヴォルキアで間違いない、よな。警戒してる様子は無いのに不意を突ける気がしない。やっぱりまずは防御に回るのがベストか。)
幸の返答で少し冷静さを取り戻した様子でヴォルキアは再び話し始める。
「あぁ、すまないな立花幸。少々熱くなりすぎてしまった。君に話したつもりではなかったのだ。」
「……?」
発言の意図が分からず、幸は軽く困惑する。
「……まぁ自覚などあるはずもない。少し昔話をしようか、立花幸。」
そのままとつとつとヴォルキアは語り始めた。
「私は今まで幾千の強者たちと拳を交えてきた。だが、私の術は殊に戦闘向きでな。敗北など数えるほどしかしたことがない。」
「………………」
「その中でも私の攻撃を躱すことが出来た者はたった三人だけだった。」
「さっきから何を……」
「いいじゃないか。私にとってはこのような緩やかな時間の方が貴重なのだ。君も休む時間は欲しいだろう?」
「………………」
「……続きだ。私の攻撃を躱せた三人、一人は我が
「……は?」
唐突な展開に幸はついていけなかった。
「おや、シーマは何も話していないのか。そういえばそういう条件だったか。」
(シーマさん……もしかしてあの蕾に何かあるのか……?)
「……まぁいい。私は今日君に会えることを楽しみにしていたのだ。騎士団内での戦闘は訓練以外で禁止されている以上、純粋に殺し合える好敵手など滅多に出会えない。」
「………………」
「回りくどくなってしまったな。何が言いたいかというと、先刻の挨拶程度で伸びてもらっては興醒めだということだ。」
そこまで話したところでヴォルキアの目にぎらつきが戻って来ていた。
「……精々、楽しませてくれ。」
(…………来る!!)
初撃による恐怖から全身の筋肉が硬直する。
両者の魔力出力が途端に跳ね上がる。
仕掛けたのはヴォルキアだった。青白い光と共に幸の視界から消え、圧倒的な初速の差を生かしガードの固まっていない脇腹へ拳を叩き込む。
「がっ……!!」
またも反応することが出来ず、幸は壁を突き抜けて道路まで殴り飛ばされてしまう。
(クッ、一撃食らっただけでこうも変わるものか……!)
ヴォルキアは自身の焼け焦げた袖を見ながら、満足げに笑った。
攻撃の瞬間、幸は拳が来た方向へ炎を噴出した。
その結果、幸の体は攻撃の向きに加速度がついたため、衝撃が十分に伝わり切る前に吹っ飛ぶことが出来た。
(見る限り反応は出来ていなかった。つまりは反射、無意識にやったということか。初撃よりも速度を上げたにもかかわらずこの有様とは……)
「まったく、化け物め!」
ぎらついた笑みを崩すことなくヴォルキアは幸へ近づいていく。
「ぐっ……」
一方幸は立ち上がるので精一杯という様子だった。
(あいつの打撃……単純にパワーもすごいけど、それ以上に食らった後の痺れがやばい。最初に気絶させられたのはこのせいかもな。)
ヴォルキアは自身の体に電気を纏わせて打撃を放つが、相手に電流を流すことを目的とはしていない。そもそも異世界の住人たちは内臓や皮膚組織に人間と大きな差異があるため、感電によって死に至ることがないからである。
だがこの世界の人間は電気に対して非常に弱く、およそ20mAの電流で筋肉の制御が出来なくなり、50mAを超えれば心室細動によって死に至る可能性もある。
幸は魔力を帯びていることである程度の耐性を獲得してはいるが、それでも電気が弱点であることには変わりがない。
(早めに順応してくれよ、俺の体……!!)
「次は少し本気で行くぞ……!」
ヴォルキアがそう言うと再び辺りが青白い閃光に包まれた。
(消え────)
思考する暇もなく次の衝撃はやってくる。
「がっ……!!」
背中を強打した。だがそこは壁ではなく、アスファルトの上だった。
(足を払って……!!)
状況を飲み込む暇を与えず、ヴォルキアは仰向けになった幸に亜光速のラッシュを叩き込む。
「~~~~ッ!!」
声を出すことすら許されない。
痛みと痺れによって幸は意識を保つことすら困難になり、途中で何度か気絶したがそのたびに次の打撃で起こされるという苦痛のループにはまってしまった。
(この状態なら逃げられんだろう……さっきのような策はもう使えまい。となれば……)
「ハッ!! この程度か!? 立花幸!!」
(おそらくこいつが次に使うのは最大出力の範囲攻撃。それを防ぎ切れば速度に適応されない限り私の勝利は必至……! その手札がないのならなおのこと勝利は確実となる。だが……だが……ッ!!)
ヴォルキアは強い憤りを感じていた。
退屈。そう表現するほかない。
圧勝などつまらない。己を死地に追い込むほどの強者でなければ戦っても意味がない。
(この程度か……本当にこの程度なのか……シャクナ!!)
落胆と諦念が心を包んでいく。
だがその時、ヴォルキアは異変に気付く。
「…………!!」
鋭い痛みが拳に走った。
殴打を止めて拳を見てみると指の付け根の第三関節の皮膚が焼け爛れていた。
「これは……」
幸の方に目をやるといつの間にか体の至る部分に蒼い炎を纏っていたことに気づく。
(第二の炎!! 私自身の光に溶けていたのか……!)
思わぬ反撃にヴォルキアは手が止まる。
意識は隊服を突き破りながら燃えている幸の蒼炎に注がれていた。
それは無敵と思われたヴォルキアに出来た、最初で最大の隙だった。
ラッシュの最中で反撃をあきらめた幸は、気づかれないように、悟られないように、ゆっくりとその形を作っていた。
「…………飛閃。」
「……!!」
手指への注意を解いていたヴォルキアへ、蒼い閃光が放たれる。
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