第51話 舞い降りた災厄
俺は災害のあった時代を生きてきたけど、災害そのものを経験したことはない。
東京は津波も大地震もほぼ来ない。地震が来たとしても「あれ? 今揺れた?」みたいなレベルがほとんど。
避難なんて訓練以外でやったこともない。しかも東京から出なきゃならないなんて、ストレスしかない。
夜の体育館は本当に寒い。床も固い。気軽にくつろげやしない。
今日は本当ならネトゲのイベントだったのにサーバーが停止したせいでアプリ自体が開けない。怪獣だか何だか知らないけど税金もらってんだから自衛隊が勝手にパパっとやっつけてくれよ。
はぁ……うちの家族は神経が図太いのかな。それとも俺が繊細なだけなのか。
なんでこんなところで普通に寝れるんだ。意味が分からない。
どうせちょっとやそっと寝不足になった所で明日も明後日も大学なんてないんだ。アホみたいな睡魔が来るまで夜更かししてやる。
SNSは……スッカスカだな。特に芸能。ま、地方の番組しかやってないんだから当然だよね。
ん? なんだこいつ。
うわマジかよ。東京じゃん。これ。
まぁ確かにこんな大規模の避難なんてやったことないだろうし、こんな奴が一人や二人いても不思議じゃないわ。
おぉ、すっげー拡散されてる。
どれどれ…………なんでこういうのって決まって陰謀論者湧くんだろうな。今回のは国単位だから気持ちはわからんでもないけど。
へぇ~本当に特殊部隊が出動してる。噂も馬鹿になんねぇや。これホントにゴジラみたいなのが攻めてくるんじゃないの?
……やばいな、いくらでも見れる。人間ってスマホ一個あればいくらでも夜更かしできちゃうんだな。
うーん、でもまだ眠くならない。もう少し時間がかかりそうだな。
もうちょいで12時か。この分だと寝るのは2時とかかな。
イヤフォン持ってきといて正解だった。動画見てれば退屈はしないで済む。
さぁて、今日はどんなのを見ようか───────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
………………!?
ここ、は……俺の部屋?
なんで、さっきまで埼玉にいたのに……
今までの全部夢……?
いやいやいやいや! さすがに無いって。無い……よな?
……でも冷静に考えたら怪獣とかありえんくね?
そうだよ、ありえないありえない。
最近ファンタジー系のアニメばっか見てたからなぁ。
…………それはそうとさっむいなぁ。窓空いてないよな。ちゃんとした服も着てるのに。
あれ?
この服夢の中で着てたのと同じ服……だよな。というかいつも寝るときはこんなに着こんでない。
……現実?
いや、でも……
…………なんかやばい。尋常じゃなく寒い。とりあえずストーブつけなくちゃ。
気候変動も大概にしろよな。霜焼けできるレベルで寒いぞ畜生。
クソッ、手がかじかんできた。マジでシャレにならない。早くストーブを……
────────あっ。
初めての感覚。
最初は特に何も感じなかった。
いや、正しくはその後も何も感じなかった。
ただ目の前に突き付けられた事実を理解していく内に耐えがたい恐怖が胸の奥底から湧き上がってきた。
ストーブのスイッチを入れようとした。
ただそれだけなのに。ただそれだけだったのに。
ストーブに手を触れた瞬間、いくつかの指の先端がストーブの表面に貼りついて、俺の手から離れていった。
痛みはない。それが何よりも怖い。寒さで神経が馬鹿になってるんだ。
声が出ない。体が動かない。力が入らないわけじゃないのに、ただ動けない。
体が固まってる。震えることしか…………なんだ、今の音。
あぁ、俺の腕……か────────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「最初からそんな全開で大丈夫?」
「転移直後に戦闘に入ることも十分に考えられたからな。あと勘違いしてもらっては困るが、これはまだ力半分といったところだ。」
「……なんでもいいけど、こっちには向けないでね?」
「無論だ。」
ある住宅街に転移した二人の男の一方が目の前の一軒家へまっすぐ歩いていく。
「あー、確認しなきゃなんだっけ。」
「前例がないからな。理論上は問題ないが、得てしてイレギュラーは起こるものだ。」
「よく考えたもんだよねー、ホント。内容はすごいブラックだと思うけど。」
「あいつは出来ないことを安請け合いはしない。今回は渋々といった感じだったがな。」
「確かにそんな感じだったわ~」
談笑しながら二人の男は家へと踏み入った。
家の中は酷く静かで人の気配を全く感じなかった。
「うーん、これやっぱり失敗だったんじゃないの?」
「……いや、おそらく成功だ。」
「えっ? おぉ~ホントだ。」
二人がのぞいたリビングには苦悶の表情を浮かべた中年の男が凍ったまま床に倒れていた。
「君の魔法使うと見つけづらいんだよ!!」
「すまなかった。だが、あまり傷つけるなというお達しも来ているからな。ゴアやライアなら欠損は免れないだろう。ゴアはそれ以前の問題かもしれんが。」
「へぇへぇ、わかってますよー。」
「2階も確認しておこう。標本は多ければ多いほどいい。」
二人は階段を上がって二階の部屋の捜索を始めた。
「ロウ! こっちにもいたよー!」
「あぁ、この部屋にも女がいた。表札を見るにもう一人いるはずだが……」
「じゃあ奥の部屋かな。俺が見てくるよ。」
男は他に特に部屋がないことを確認した後、奥の部屋の扉を開けた。
「お邪魔しま……わぁ!!」
「どうした!?」
「わァ……ァ……」
「何を…………あぁ欠損していたのか。お前別にこの類の死体が苦手なわけじゃないだろう。」
「…………いやなんか、怒られるかなぁって。」
「代わりはいくらでもいる。こいつである必要性もない。元々、『出来れば』という話だったからな。ふざけている暇があったら記録でも取っておけ。」
「はいはい。」
その家で一通り記録を終えた後、二人は家から出てきた。
「で、このあとはどっちにする?」
「そうだな、この辺りには特に気配を感じない。俺たちはこのまま続けよう。少々派手にな。」
「うへへっ、了解! よ~し、あいつが来るまで何人殺れるかな!」
「勝負するか?」
「望むところよ!」
そう言うと二人は夜の街へ散開していった。
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