第50話 幕間
「信用が薄いのは重々承知だ。だがここだけは譲れない。頼む。捜索隊には他の奴を向かわせてくれ。」
「…………」
レイの緊迫した様子を見て仁は熟考に入った。
(確かに誠人はその他大勢とは比較にならないほど優秀な人材だ。だからこそ人命救助に回すのが最適ではないのか? 優先すべきは……いや、だが戦に負ければ結局意味がない。誠人を救助に回してしまうのは戦力的にも痛手ではある。それにここまで食い下がってくるということは……)
「君には何か勝算があるのか?」
考えた末、判断材料の不足に気づいた仁は再度レイに聞き返す。
少し間を開けた後、表情を少し曇らせながらレイは問いに答えた。
「残念ながら、確証があるわけじゃない。」
「……そうか。」
「だがその逆ならある。」
「逆……?」
「端的に言えば負ける見込みってことだ。あぁでもこれはマコトに対してじゃなく俺や立花幸に対しての、だがな。」
「どういうことだ?」
仁は侵略者たちを『魔力という得体のしれないエネルギーを扱う人間の上位互換』というように捉えていたため、敵に対して魔力を使えるレイや幸の方が負ける見込みがあるというレイの言動の意図があまり理解できなかった。
「あー……これも後でまとめて言うつもりだったんだが、まぁ順序にこだわってても仕方ねぇ。いいや、ちゃっちゃと教えてやる。」
そう言うとレイは懐から丸まった羊皮紙のようなものを取り出し、机に広げた。サイズはA3ほどで全体的に黄ばんでおり、ところどころ破れかかっていたが書かれている内容は難なく読めた。
「これは……『幹部の一覧』?」
「字が下手なのは許してくれ。話す聞くは得意なんだが読み書きはあんまやってねぇんだ。」
「……なるほどね。」
内容を見てざっと目を通しただけで誠人は先刻のレイの発言の意図を完全に理解した。熟読していた仁はやや遅れてそれに気づく。
「第8師団長、ムルカ・ベイン……か!!」
「そういうことだ。こいつの魔法は『魔力吸収』。魔力による攻撃をほぼ100%無効化するっつーやべぇ代物だ。攻略法は無くはないが、正面からやりあったら二対一でもめんどくせぇし最悪どっちもやられる可能性もある。」
「なるほどな……」
「レイさんの思ってる攻略法って何なの?」
「……単純な殴り合いだ。あいつは衝撃自体を吸収することは出来ないからな。もちろん攻撃してるうちに少しずつ魔力は削られるが、設置面積と接触時間を考えりゃ吸収量は抑えられると思った。」
「でもそれって……」
「あぁ、単純な殴り合いができる前提だ。お前らには厳しいだろうな。それにあっちもそのくらいの対策はしてるだろう。」
「うーん、まぁそうだよね。」
「正直俺もお前らを使って勝つ策はまだ考えられていない。どうしても基準が魔法を使える奴に寄っちまうからな。」
「なーる。それでこっちの戦力とか諸々を把握してる優秀な奴に討伐してほしいということだね?」
得意げな誠人に対してレイは無言でうなずいた。
「で、どうします? 総監。」
「……情報の信憑性はともかく、もしこれが本当なら現状お前以上の適任はいない。救助隊は別の者に指揮を取らせる。情報の擦り合わせが完了し次第お前の独断でムルカの討伐隊を編成しろ。」
「了解。」
「……レイさん、一つ聞きたいことがあるのだが。」
「なんでもどうぞ。」
「不死身になっている一般兵を止めるにはどうすればいいのか、それについての策は……」
「……申し訳ねぇがそっちも確実な作戦はない。術の解除の条件も知らないからな。可能性があるとすりゃ本体を叩くことくらいだ。」
「なるほど。だが不死身の力が使えるのではあまり意味がないのでは?」
「いや、多分その能力はあいつ自身には使えねぇ……と思う。」
「……!!」
それを聞いた誠人は先刻のレイの発言を思い出した。
「そうか! 魂が……」
「あぁ。あいつは体を無理やり修復させて操ることは出来るが魂だけは縛れない。んでもって脳みそブン回して発動する魔法が抜け殻のゾンビに使えるわけがない。その理論で行けば奴が死ぬことで術は解除されるはずだ。あくまで推測だがな。」
「やはり持久戦か……」
「終わりが見えた分、何となく気は楽だろ?」
「……そうだな。やるべきことは決まった。総員、ひとまずこれからの方針を伝える。」
仁は椅子から立ち上がり、本部の人間全員に向かって呼びかけた。
「安形、救急と協力して捜索隊を編成した後、近隣の住宅へ向かって住民がいるかどうかの確認を頼む。いた場合は避難誘導と情報共有を忘れずにな。誠人は本部で敵の情報を可能な限りレイさんから聞き出せ。まだ使える情報があるかもしれん。立花くんは一旦休憩と治療だ。まとまった時間を用意してあげたいが被害の状況によってはすぐに出動してもらうことになるかもしれない。覚悟はしておいてくれ。他の者は連絡が入るまで待機! 以上!」
はきはきとした口調で力強く指令を伝えた仁は気と声を張ったことで些か疲れたのか、その後重力に任せるように椅子に体を預けた。
安形と呼ばれた警官はすぐさま三、四人ほど連れて部屋からあわただしく出ていった。
「立花くん、臨時の医務室を隣に用意してある。その肩の傷、あまり深くは見えないが悪化するといけない。すぐに診てもらいなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
幸は本部である総合指揮所を出て、同じ階にある大会議室へ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ざっとこんなもんだ。他に何か聞きたいことは。」
「いや別に。十分すぎるほどですよ。」
「そりゃ何より。」
「……あ、でも一個だけ。ムルカって奴は俺たちで倒すって話だけどその他はレイさんと幸くんで全部何とかするの?」
「……最悪の場合な。」
最悪の場合という奇妙な言い回しに誠人は疑問を抱いた。
「ってことはワンチャン増援があるかもってこと?」
「そこまで耐えられればの話だがな。」
「耐えられれば? 時間の問題なの?」
「あー……厳密には少し違うが、そう信じるしかねえ。」
「うーん、今度は信じると来たか。その人も作戦を実行中みたいだね。」
「それもちょっと違う気もするが……まぁこっちの話だから気にすんな。別にけなすわけじゃねぇけどお前らに話してもあまり意味がないんでな。とにかくその時まで耐え凌ぐことが出来れば、形勢は一気に傾くだろう。」
「へぇ~強いんだ。その人。」
「まぁな。単純な戦闘能力なら現時点での俺や立花幸より圧倒的に上だろう。」
「わぁお、楽しみ。」
「あぁ。あいつが、シーマが加われば……」
「はぇ~シーマって言うんだその人。結構シュッとした感じの名────」
(……ん? あれ? え、ちょっと待って!?)
流すつもりで聞いていた誠人はそのレイの発言に思考が追い付かなかった。
「レイさん、今……なんて言った?」
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