第46話 フラッシュバック

「ぐっ……」


「おとなしくしといてくれよ。暴れられると色々めんどいからな。」


(くそっ、こいつ……!)


 路上にて二人の男は対峙していた。


 一人は地に伏し、一人はその様子を悠々と眺めている。


 誰が見ようとも勝敗は明らかであった。


 5分ほど時をさかのぼって現在に至るまでの経緯を記そうと思う。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 向かってくる弾丸を時には受け、時にはかわしながら幸は着々と狙撃手の男との間合いを詰めていた。


(……改めてバケモンだな。師団長クラスでもLEVEL2ならもうちょい苦戦するだろ。)


 両者の距離はおよそ500メートルほどまで縮まっていた。


 本来、距離が近くなればなるほど狙撃の回避は困難となるが、ほとんどの弾丸に十分な威力が備わっていないことを理解した幸は恐れることなく接近することが出来ていた。


(さすがに準備が間に合わねぇ。仕方ない、結構な賭けだが……一発だけ使うか。)


 狙撃手は再び銃のダイヤルを回した。


「……LEVEL3『淘汰エクストリーム』。頼んだぜ。」


 引き金を引くとわずかな反動と共に巨大な魔力の塊が銃口から放たれた。


「さぁて……一本勝負だ!」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「……なんだ?」


 違和感。


 今までとは何かが違う、そんな感覚が幸の中に芽生えた。


(弾が来なくなった。でも弾丸の軌道的に敵はもう少し先にいるはず……まさか、逃げたのか?)


 相手はおそらく遠距離攻撃を主力とする相手。十分に接近された場合は退避を選ぶということも十分に考えられる。


(それなら俺も楽だからいいんだけどな。このまま弾が来ないようならゆっくり離れて俺も退却────)


 は一瞬の出来事だった。


 幸が数メートルほど吹っ飛ばされたことを自覚したのは冷たく硬いアスファルトの感触が背中に伝わってきた時だった。


(な……んだ、今の……)


 威力も速度も明らかに今までの弾とは次元が違った。だがそれ以上に音や形が全く確認できず、何の前触れもなく弾丸が迫っていたことに幸は危機感を感じた。


 視界がぐらつく中でなんとか状況を整理しようとする。


(やっぱり、まだ隠し玉があったんだ……そして待っていた、俺が十分に近づくまで……!)


 体中が衝撃で痺れている中、幸はよろよろと何とか立ち上がる。


(あんな弾が何発も撃たれたらいよいよやばい。でも最初から使ってなかったってことはやっぱり消費が激しいのかな。普通に接近したから使ったっていう可能性もあるけど、倒れていた時に追撃してこなかったから少なくとも再装填に時間がかかるのは確か……だと思う。)


 自身の希望的観測に幸は苦笑いするしかなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「よし、とりあえず足は止まったな。」


 作業しながら男は銃のスコープを覗いていた。


(まぁ、あいつならいずれ近づいてくるだろう。大体この辺までは……2,3分くらいのペースか。ビビってだいぶスピードが落ちてんな。そりゃそうか。)


 男はダイヤルを再度『2』の部分に戻した。


(あとはLEVEL2で大丈夫だろ。あいつの頭なら引っかかるだろうし。)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




(あのビル……多分そうだ。)


 幸の視線の先にはおよそ高さ200メートルの高層ビルがそびえたっていた。


(この距離なら間違えない。確実に弾丸はあの屋上から撃たれてる……!)


 先ほどのような高出力の弾丸を警戒して細かく射線を切りながら徐々にビルへと近づいていく。


(室内に入れば窓や壁を割らない限り俺に弾を当てるのは難しい。それくらいわかりやすい目印があれば今度は避けられる。)


 近づいていく途中で狙撃は再開していたが、どれも曲がるだけの低出力な弾丸のみだったため、今のうちに接近しようと幸は速度を上げた。


(あと大体100メートル。遠距離主体なら接近戦はそれよりも不得意だろ。間合いを詰めれば有利なのは俺なはず。さっさと入って…………)


 幸がそう考えていた時、ほとんど一定の間隔で飛んできていた狙撃がピタリとやんだ。もともと幸にとっては意に介す必要すらない威力の狙撃ではあったが、『いきなり狙撃が止まった』という状況は幸の脳内に強く焼き付いていた。


(さっきもこうやって狙撃が止まってた……装填しているのか!!)


 高出力弾を危惧した幸は今度は全速力でビルへと加速した。


(次食らったら意識も飛びかねない……! 何とか来る前に────)


 その時、幸は足の裏にかすかな痛みを感じた。


 針で刺されたような弱いながらも鋭い痛み。


 ゴアとの戦いによって靴の裏が剥げていた幸はとがった石か何かを踏んでしまったかとその痛みを無視しようとした。


 だが次の瞬間、


「……は?」


 足が浮いたかと思うと、その裏には大きな楔のようなものが突き刺さっていた。


「これって……」


 幸にはその楔に見覚えがあった。


 しかしその記憶を掘り起こす暇を楔は与えなかった。


「がっ……!!!」


 強力な電撃が楔から放たれる。幸はたちまち体中が痺れ、固まったまま道路に倒れこんでしまった。


(思い……出した。これは……シーマさんが使ってた……ッ!!)


 再び電撃が幸の体を襲う。


 幸が力の蕾と同化したすべての始まりの日、シーマが怪獣を止めるために同じ道具を使っていたことを幸は思い出した。


 幸の何十倍もの体積を持つ怪獣でさえも数分止められる代物。それを人間である幸に使用すればどれほどの効果が得られるのかは想像に難くない。


 魔力によって強化されているとはいえ数分は身動きさえ取れなくなることは必至。


 戦闘中に動けなくなった相手を見逃すような馬鹿は存在するはずもない。


 幸は一気に絶望的な状況へと叩き落されたのだった。




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