第45話 魔弾の射手
(敵の姿が見えない……!)
三発の攻撃を受けた幸は慌てて瓦礫で身を隠す。
(魔力を使った狙撃みたいな感じか。威力は全然だけどとにかく速い。体勢を崩されると厄介だな……)
そう考えていた次の瞬間、幸が背を預けていた瓦礫の山が突然吹き飛んだ。
「なっ!?」
幸に当ててきた弾丸とは比べ物にならない威力。一瞬にして遮蔽物が消えてしまった。
「チッ、それなら……!」
幸は瓦礫を蹴り上げ、砂煙を発生させた。その中を突っ切って魔力の弾丸は幸へと迫ってくるが、砂によって軌跡が見えていた幸はたやすく弾丸を回避した。
(やっぱり速いな。でも見えればそこまで怖がる必要はない。一旦隠れてゆっくり間合いを詰めていこう。)
幸は急加速して路地裏へと身を潜めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(……隠れたか。なかなかやるねぇ。このまま続けてたら多分普通に見えるようになってくるだろうな。逃げられても面倒だし、LEVEL2で誘ってみるか。)
狙撃手の男は銃のダイヤルを回した。
「LEVEL2
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「くっ……」
幸は路地裏を移動することで狙撃からは何とか逃れていたが、ゴアとの戦闘によって受けたダメージを今一度痛感していた。
(肩の傷はマジでヤバイな。でもこの状況で離脱するのは難しいし、そもそもシーマさんが協力できるのかどうかも怪しい。まずはこの狙撃手をやるしかないか……)
そう考えていると、ふと耳鳴りのような音が聞こえてきた。
(疲れてんのかな……嫌なんだよな、さっきの怪獣の魔法を思い出しちまう……)
直後、幸の膝はかくんと折れ曲がり、そのまま地面に片膝をついた体勢になってしまった。
「えっ……?」
何が起こったのか全く理解できなかった。
疲労によって膝に限界が来たわけではない。確かに膝をつく直前に膝裏に衝撃が加えられた感触があった。
だが、この状況で思い当たる衝撃の正体はたった一つしかない。
「でも……ありえなぶっ!!」
混乱しているうちに今度は顎が跳ね上げられる。
(いや、間違いない! さっきの奴だ! ホーミングみたいなこともできるのか……!)
おちょくるような攻撃に幸はかなり苛ついていた。
(ふざけやがって……こんな威力じゃダメージなんて入るわけない。完全に嫌がらせ目的だ。)
全くの逆方向から二つの攻撃が来たこと、加えて遮蔽物があるにもかかわらず難なく正確に狙撃してきたことからむしろ路地裏は危険と考えた幸は、ビルの屋上に飛び乗った。
(開けた場所ならおおまかな方向は分かるはずだ。もう一回撃ってこい……!)
目を凝らし、耳を澄ませて幸は次の狙撃を待った。
すると、数秒経ってから先ほどの攻撃の時にも聞こえた耳鳴りのような音が聞こえた。
(方向は……こっちか!!)
音のなる方へ振り向くと次の瞬間には脇腹に弾が命中していた。
「ぐっ……!」
この攻撃もジャブ程度の弱い衝撃で幸にダメージを与えるには至らなかった。
(方向はあってた、けど反応がまだ遅い。もっと耳を使うんだ……!)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おいおいマジか。もうLEVEL2に反応しやがった。」
男は酷く驚いた様子でスコープ越しに幸を見ていた。
(弾速は倍近くまでになってるはずなんだが……こりゃもう時間の問題だな。出来ればLEVEL3以上は使いたくねぇんだけどな。そもそもあいつの報告が適当過ぎるんだよ。『開花』無しでここまでとは思わねぇだろ普通。ま、予定を少し早めるか。)
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(よし……段々弾自体も見えるようになってきた。)
幸は何発か受けつつも、活性化された五感をさらに研ぎ澄まし、絶え間なく浴びせられる狙撃に何とか対応していた。
(一番最初の弾とはやっぱり違う。ホーミング、みたいだけど軌道は何回も変えられないのか? 一度躱せば追ってこない。)
だが同時に依然として威力の上がらない攻撃に幸は違和感を抱いていた。
(やっぱり全っ然痛くない。瓦礫を吹っ飛ばすくらいの出力は出せるはずなのに……油断したところをズドンって作戦か?)
低火力でも警戒は怠らず、弾丸の軌道を見て慎重に弾の出所をうかがう。
魔力によって生成された弾丸はあらゆる物理法則を無視することが出来る。現に180度旋回するような弾丸も発射されており、ただ弾丸の軌道を追うだけでは狙撃者の位置を探ることは困難だろう。
しかし、発射の位置が変化していなければいかに巧妙に隠そうともそこには一定の法則が必ず存在する。
(大体の見当はついた……)
幸はその法則を無意識のうちに掴んでいた。
「ふんっ!!」
弾丸を突っ切りながら狙撃手がいると思われる方向へ幸は全速力で走り始めた。
(今はまだおおまかな方向でいい。飛んでくる弾を見ておけばもっと細かく予測できる!)
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(……動いたな。予想通り。やっぱあいつも賢いな。さて、こっちもぼちぼち始めますか。)
狙撃手の策略は水面下で静かに進行していた。
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