第41話 第5師団長 ゴア
一族の中でも異端とされるほどの巨躯と、怪獣族ではありえないとされていた先天的な魔力の保持という二重の突然変異による驚異の戦闘能力によって異例の速度で師団長まで昇進した。
脳の容積が圧倒的に大きいことから知能も一族で群を抜いて高く、戦場ではその頭脳と己の圧倒的な質量を駆使して数々の戦果を挙げてきた。
(ありえない……!!)
だが、数々の強敵を葬ってきたゴアでさえも
「グウゥッ!」
「遅い!」
ゴアは風によって幸を跳ね除けようとするものの、それ以上の推進力で攻撃を仕掛けられているがために風は攻撃の勢いを幾分か軽減するのみで、懐に入られた時点で相当数の攻撃を食らうのは必然であった。
(これが……第二の炎の力なのか……!!)
「まだまだ……!!」
何発も、何発もゴアの胴体へ拳を叩き込む。
(クッソ……こいつ、タフすぎるだろ……!!)
一見、ゴアの方が追い詰められているように見える。事実ゴア自身も自分が劣勢だと思い込んでいた。だが、現状の最大火力である
(何か、急所みたいなものがあれば…………)
そう思った幸がゴアの巨大な胴体を見渡すと、最初は暗闇のせいで見えなかったが、脇腹のあたりに大きな傷跡のようなものが見えた。
(あれ、あんなところに攻撃してたっけ……?)
「アマリ、イイキニナ"ルナ"ヨッ!!」
「なっ……!」
ゴアは逆に自分に向かって風を吹かせ、幸を自分の体表へと押し付けた。そしてそのまま道路へと倒れこもうとした。
「させるか……!!」
押しつぶされまいと幸は横方向へ回避した。それを確認したゴアは倒れる直前で踏みとどまり、幸に向かって腕を振り回して気流を起こし、幸を強制的に離れさせた。一旦態勢を整えるために幸もゴアから離れた。
(接近戦なら俺に分がある。でも風を抜けるのにいちいち火力が必要になるせいで魔力消費が激しすぎる。かといって飛閃は対人用の技だし、ここまででかい相手にはほとんど通用しない可能性の方が高い。)
(もう懐に入られるわけにはいかない。第二の炎、やはり脅威だ。ここまで深く響くとは想定していなかった。これ以上は危険、ならば遠距離攻撃で仕留めるまで……)
「……!?」
幸は次のゴアの行動が全く理解できなかった。
それもそのはず、ゴアはおもむろに合掌を始めたのだ。
(なんのつもりだ?)
困惑する幸の耳に「キイイィィィン……」と甲高い音が聞こえてくる。初めて聞く音ではあったが、幸はなぜかその音に不快感を覚えていた。
(この音……なんというか、アレに似てる。歯医者の……ドリル?)
「……!!! そうか!!」
幸はそこで音の正体に気づき、すぐさま空中を飛び回り始めた。
(気づいたか。だが、果たして躱せるかな?)
ゴアは飛び回る幸に照準を合わせ、合掌した両手を幸に向かって突き出す。
(この速度で飛び回ってればあたるはずは……)
そう思っていたのもつかの間、幸は突如進行方向からの強烈な逆風に襲われる。
「ぐっ……! こいつっ!!」
「…………
ゴアの言葉が聞こえたかと思った次の瞬間には幸のすぐそばまで風を切る音が近づいてきていた。
「うおぉぉぉっ!!」
逆風によって空中にとどめられていた幸は何とか当たる直前に加速することで直撃を免れた。だが、完全に回避することは出来ず左肩に斬撃を食らってしまった。
「くっ……!」
(……躱したか。逆風のタイミングが少し早かったな。)
ゴアの
その推進力はただ魔力を変換しただけの気流とは比べ物にならず、最大まで圧縮すれば速度は音速にも匹敵する。
短所は相手に当てる難易度が高いことと溜めの時間が必要になること。だが、ゴアは気流操作による相手の妨害によってその二つの弱点を同時にカバーしていた。
(斬撃はまずい……!)
幸は先刻の攻撃に対してかなり危機感を持っていた。
斬撃は打撃に比べて致命傷になる確率が高く、たとえそこまで深い傷にならなかったとしても失血によるパフォーマンスの低下が期待できる。連戦は必至の現状で先刻のような大規模の斬撃を受け続けた場合、幸たちの敗北はほぼ決定的となってしまう。
(賭けるしかないか。あの傷跡に……)
単純に殴るだけでは決定打には至らず、遠距離ではそもそも手札が少ない。短期決戦を望む幸にとって唯一の希望は自分がつけた覚えのない腹部の傷跡だけだった。
「初戦からこんなに綱渡りなのかよ……」
厳しい状況に対し、幸は自嘲気味に笑いながらそう言った。
一方ゴアは冷静に状況を分析し、次策を練っていた。
(相手は『英雄』、あまり同じ技を見せ続けるのは得策ではない。出来ることならば次の一撃で仕留めることが望ましい。消耗は激しいが……)
「…………
ゴアがそう唱えた瞬間、ゴアの体内の魔力があたりに一気に広がった。
「今度は何だよ……!」
ゴアの魔力が大気に溶けていった次の瞬間、強烈な暴風が幸を飲み込んだ。
「~~~~っ!!」
上下左右、予測不可能の乱気流。その勢いは姿勢制御の可不可以前に、ゴアがどこにいるのかさえ分からなくなるほどだった。幸の声にならない声がビルの合間に響き渡る。
対照的に幸の数万倍の重量をもつゴアはその乱気流の中でも平然と立っていた。
(踊れ、『英雄』よ。我が風の刃が貴様を葬るその時まで……!)
ゴアは再び手を合わせ幸に照準を合わせた。
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