第40話 風前の灯火
その感覚は初めてシーマと出会ったときの感覚に似ていた。
受け入れがたい現実を目の当たりにしたことで幸はほんの一瞬頭が真っ白になるあの感覚。
段々と近づく怪獣を凝視し、自分の生命の危機を察知した幸は屋上からすぐさま最大火力で加速して離れる。
もう怪獣を目で追う余裕はなかった。その時はただ避けることだけを考えていた。
怪獣の振り下ろした拳によって幸がいたビルは跡形もなく崩れ去り、着地の衝撃で周辺のビルも3、4棟ほど倒れてしまった。道路はすでに見る影もなくなっており、無残にもあたりには歪んだ信号機や標識が散らばっていた。
「ふざけんな……!!」
どんなに幸が人間離れした身体能力を持っていると言っても、数百トン単位の物体を頭上から落とされたなら間違いなく死に至る。もしも数秒反応が遅れていたならば、幸はビルと同じ運命をたどることとなっていただろう。
舞い上がる砂埃の向こうからギラリと光る怪獣の双眸が見えたかと思うと、すぐさま空中の幸に殴りかかってきた。
「ぐっ!!」
紙一重で幸は躱すが、風圧によって姿勢の制御が上手くいかず、大きく流されてしまう。
(なんでこんなに速いんだよ!!)
圧倒的な質量と体積を持つにもかかわらず怪獣の動きは機敏で、一瞬でも油断すれば完璧に捉えられてしまうほどだった。
「マダ……ダ……!」
怪獣は息つく暇を与えず、二回三回と幸に向かって的確に攻撃を当てに来る。
(俺だって……!!)
このまま防戦一方になってしまえば敗北は必至。そう考えた幸はパンチをかわしながら徐々に間合いを詰めて怪獣の懐へと入っていった。
「グ……オォ……」
流石に至近距離の戦いとなると巨大な体を持つ怪獣には不向きであり、鬱陶しそうな表情を浮かべていた。
(いける!!)
攻撃の手が緩んだ隙を見逃さず、幸は怪獣の胸元へと渾身の刺突を繰り出す。
熱されたトンファーは深々と怪獣の肌に突き刺さった。
「よしっ!!」
「グッ、ウゥ……」
(このままえぐって…………!!)
幸は刺したままのトンファーを横へスライドさせ、傷口をさらに広げようと考えていた。だがその矢先、怪獣の表面から突如体が吹っ飛ぶほどの強風が発せられた。
「なっ……に……!!」
何とかしがみつこうとするものの、トンファーが抜けてしまい、耐えきれず幸は吹っ飛ばされてしまう。
(これが、こいつの……!!)
考える暇も与えず、幸が吹っ飛んだ先に怪獣は拳を振り下ろす。
幸は風に乗ったままその勢いに逆らわず、炎によって急加速することで回避した。
一旦幸は地面に降りようと炎の勢いを弱めて着地しようとするが、下から跳ね上げる突風によって幸の意志とは反対に幸の体は宙へと浮き上がった。
「なっ……!!」
たまらず幸は体勢を崩す。驚いているのもつかの間、今度は怪獣に向けて強風が吹き始める。
(やっ、やばい!)
当然、この風も怪獣の魔力によって引き起こされたものであり、その風下には怪獣の拳が待っていた。
(避けるのは困難……だったら……!)
幸は風に身を任せ怪獣の拳へと突っ込んだ。
怪獣は幸と己の拳が引き合うような方向に風を調整しており、その分威力と回避の難度を底上げさせている。まともにその拳を食らえば拳へと向かう逆風の影響によって衝撃の逃げ場が少なくなるため、ほとんど吹っ飛ぶことはなく押し潰されてしまうだろう。
だが今回に限っては、
「ギィアアアアアアアッ!!!!」
ダメージを受けたのは怪獣の方だった。
今まで感じたことのない鋭い痛み。
怪獣は慌てて煙の出ている自分の腕を見る。するとそこには大きな裂傷のような傷跡が確認できた。傷口付近の体表は溶けてただれており、焦熱をまとったその傷は肘のあたりまで続いていた。
魔力を感知した怪獣はあわててその主へと向き直る。
幸は踏み砕かれたアスファルトへ降り立っていた。
「ソノ"……炎ハッ……!!」
ゆらゆらとゆらめく美しくも儚げな蒼い炎を怪獣の目が捉える。
「……これを信じてよかったよ。」
幸はパンチが当たるその瞬間、回避をあきらめて
(
「悪いけど、お前は初戦だからグダグダやってらんねーんだわ。」
「ギギ……コノ程度デ、モウ勝ッタツモ"リカ?」
「いいや、きちんとお前を殺すまでは気は抜かないさ。」
「……!!」
幸の瞳から発せられる純粋なる殺気。その冷たさに一瞬怪獣はたじろいだ。
「……いくぞ。」
幸はそう告げるやいなや真っすぐに怪獣に向かって加速しながら突っ込んでいく。
その様子を見て怪獣は再び臨戦態勢に入り、迎撃の構えを取った。
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