第39話 規格外
「ほんっと、嫌な記憶がよみがえってくるわ……」
「ギィオオオオッ!!!」
新宿の町中に怪獣の咆哮が響き渡る。
「死んだんじゃなかったのか……!」
「おそらくは別個体だと思います。」
「それにしても種族内であそこまで差が出ますかね。」
怪獣からおよそ500mほど離れた場所で幸とシーマは怪獣の出現を目撃していた。二人が出会った日に戦った怪獣は体長がおよそ10mほどで家二軒分ぐらいの大きさであったが、今回の個体はそれよりもはるかに大きいことが遠目にもわかるほどのサイズだった。
何を隠そう東京の一等地に在するビルと文字通り肩を並べていたのだから。
「もしかして、あれも下級ですか?」
「さすがにあれは一線級だと思います。」
「……それが聞けてほんのちょっとだけ安心しました。それじゃあ……」
「はい、ビルの上でいいですか?」
「お願いします。」
転移の準備が済んだところで幸はマスクに搭載された通信機で本部に連絡を取る。
「すみません! 僕、新宿に出現した怪獣と交戦するので一旦あたりの人たちに離れるよう伝えてください!」
「……了解!」
通信機の向こうからそう聞こえた後、幸はスイッチを切ってシーマに目配せをする。シーマは直ちに転移を実行した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ッ!」
怪獣の真横のビルに転移した直後、幸はそのサイズ感に改めて息を呑んだ。
一歩一歩歩くたびに捲れていくアスファルト、凄まじい生命力を感じさせる呼吸音、そして何より体中をほとばしっている膨大な魔力。一挙手一投足に生物としての格の違いが表れていた。
(こんなのと戦うのかよ……!)
全長100mを超えるであろう体長、体積で言えば最初に戦った怪獣の軽く数十倍はあるだろう。あまりにもふざけたサイズ感に幸はもう笑うしかなかった。
(先手を取れるのが救いだな。まだこっちには気が付いてな……)
油断。
幸はこの時既に先手を取ったと勘違いをしていた。正確には先手を取るチャンスを得たに過ぎないのだ。
また、先刻幸が怪獣の内部にめぐる魔力を感知したことからその逆についても考えを巡らせるべきだった。
幸がどこに初撃を打ち込もうかと怪獣の顔から視線を移した瞬間、怪獣の顔はぐるっと真横を向き、そのまがまがしい琥珀色の両の眼が二人の姿を捉えていた。
「見ヅ……ケタ……ゾ!!」
「!?」
「幸さん!!」
奥底から絞り出すような怪獣の低い声が大音量で二人の耳へ打ち込まれる。
そこで初めて幸は怪獣がこちらに気づいていることに気が付いた。
(やばい……!!)
幸はすぐに身構え、相手の出方をうかがった。だがそれは間違いだった。怪獣はすでに攻撃に入っていたのだから。
一瞬大きな音が聞こえた後、幸は足元がぐらつくような感覚を抱いた。初めは怪獣の闊歩による地響きか何かだと思っていた。だが、妙なことにぐらつくだけではなく確かにビルの屋上が傾いていた。
(なん……だ……?)
ガラスの割れる音が段々と近づいてくる。それはすぐそばまで近づいてきていた。
(まっ……まさか!!)
「シーマさん! 逃げて!!!」
そう叫んだ次の瞬間、屋上の床を粉々に割り砕いて灰塵と共に怪獣の左腕が現れた。
「ぐっ……!」
「幸さん! 私のことは気にしないでください!!」
怪獣の腕に吹っ飛ばされつつも、シーマは転移によってその場から離れた。
幸は飛行能力を有しているためそのまま滞空して再び近くのビルの屋上へ飛び移った。
(くっそ! やられた……!)
無残に破壊されたビルの残骸を見て幸は怪獣がどうやって攻撃を仕掛けていたのかを理解した。
幸とシーマを視認した怪獣は可能な限り攻撃を悟られないよう、ビルの下という死角から体を向ける動作と共に最短距離の裏拳でビルを殴り抜いていたのだ。この方法ならば向き直って撃つ必要があるアッパーのような攻撃よりも回避はしにくくなる。
「やっぱ賢いな、お前ら。」
「……下級、ト同ジトハオモハナイ……コドダ。」
「だろうよ。喋れてるし。」
幸は必死に頭を回して目の前の化け物を倒す策を考えていた。
(この質量だと打撃技にはあんまり期待できない。なら、トンファーでの刺突か、飛閃で急所を抜くか……)
「ギィオオオオオオッ!!!」
体の奥まで痺れるような咆哮が幸に発せられる。
「ぐっ……!!」
思わず幸は目と耳を閉じてしまう。周辺のビルの窓は耐えきれず、次々に砕け散っていった。10秒ほど続けられた後、やがてその声は止まった。終わった後もしばらく耳鳴りがするほどの
「…………!?」
幸が目を開けるとそこにはすでに怪獣の姿はなかった。
(なっ!? どこ行きやがった! くそっ、耳鳴りで何も……)
その行動に特に根拠はなかった。
幸は昔から少年漫画をよく読んでいたため、今回のような『少し目を離した瞬間に敵が消えた』という戦闘シーンは多くのバトル漫画で見たことがあった。
強いて言えば、理由はただそれだけだった。
その記憶たちが幸の視線を頭上へと向けさせた。
「…………は?」
午前0時過ぎの真夜中の空は暗く、最初はほとんどわからなかった。
だが段々と回復していく聴力とわずかな月光の反射を見逃さなかった幸の視力が目の前の恐るべき現実を捉えた。
怪獣は上空から、幸に向かって落下し始めていた。
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