第12話 急転直下

「うっ……」


 暗闇の中、幸は目を覚ました。


(動けないし、周りが真っ暗で何も見えない。何が起こったんだっけ? 確か家が……そうだ、あいつが家を引き寄せて2人を……)


「!!」


 全てを思い出した幸は残った力を振り絞って自分の上の瓦礫を破壊してあたりを見回す。えぐれたアスファルトや見る影もないほどに砕け散ったブロック塀が事態の凄惨さを物語っていた。木くずと砂埃が舞う中、幸は両親の捜索を始めた。


「父さん! 母さん!」


 まずはとにかく二人の安否を確かめたかった。横転して瓦礫の山となった家を見て、幸の頭には最悪のケースがよぎる。


(考えるな、考えるな……!)


 余計な思考を止めて一心不乱に大声で呼び掛けながら瓦礫の山をかきわける。


(そうだ、二人とも玄関にいたはずだから……)


 そう考え、幸は元々玄関だった部分を重点的に捜索し始める。


「くそっ、どこだ!?」


 必死にかき分けるがなかなか二人は見つからない。


 それでも諦めずに探し続けていると、


「うぅ……」


 瓦礫の下から小さく呻き声が聞こえてきた。


「!!」


 幸は下にいる人間を傷つけないように、丁寧に素早く瓦礫を取り除いていった。

 そうしていくと下からは銀髪の美女が現れた。


「シーマ、さん……」


 正直、幸はシーマを見て少し落胆していた。確かに助かってよかったとは思ったが、所詮は昨日今日知り合った仲であり、両親が危機に瀕している状態だったため幸の頭からはすっかり忘れられていた。


(大きな怪我はしてない。シーマさんはあまり心配しなくても大丈夫だろう。)


 気を失っているシーマを瓦礫から離れた場所に寝かせて幸は再び両親を探そうと瓦礫の山へ戻ろうとした。だがこの時、まだ瓦礫の山に潜んでいるであろう三人目の存在とその目的について幸は考えを巡らせるべきだった。


「お前は、運が悪かった……」


「!?」


 シーマを寝かせて振り返ると、瓦礫の山にはストラが立っていた。その右手に幸の母親を携えながら。


「いや……私の運が良かったんだろうな。」


「てめぇ……っ!」


 首をつかまれた母は酷くぐったりしていて、意識も朦朧として目の焦点が合っていない様子だった。ところどころ流血もしており、素人目に見ても危ない状態であることはすぐにわかった。


「お前の母親は勝手に降ってきたぞ。おかげで楽に手に入った。」


「離せよ……!」


「離すと思うか? やはり先程までの私は生ぬるかった。心臓に手がかかった状態で交渉しておけばここまで苦労することは無かっただろうに。」


 ストラの想定は概ね正しい。母親の命が文字通り手にかかっているこの状況下では断るという選択肢は幸には選べるはずがなかった。


(くそっくそっくそっ……!!)


 思考を巡らせるが、一向に現状を打破出来る策が思いつかない。

 その様子を見て勝ち誇った顔でストラは話し始める。


「もう一度聞こう。我々の犬になるか、それとも両親を失うか。どちらがいい? まぁ、もう片方は手を下す必要すらないかもしれんが。」


 ここぞとばかりに幸の怒りを煽っていく。

 そしてこう付け加える。


「また反抗されても面倒だ。猶予は10秒としよう。」


「なっ……! (嘘だろ……!?)」


 10秒。

 両親の人生と自分の人生、その二つを天秤にかけて選択するにはあまりにも短い時間。


「10……9……8……7……」


 無情にもカウントダウンが始まる。ストラのカウントは正確だったが、焦燥と恐怖に包まれた幸には何倍にも速く感じた。幸にはもはや選択の余地は無かった。目を閉じ覚悟を決める。


「分かった……俺の管理権を……」


「6……ごっ……!?」


「うおおぉぉぉっ!!!」


「!?」


 カウントダウンは男の叫び声とともに止められた。


「父さん!!」


 幸の父が後ろから隙を伺ってストラにタックルをしかけていた。もしもストラが万全の状態だったならば、ただの人間に倒されるなどということは万に一つもなかっただろう。しかし、先の幸との戦いでのダメージや先に母親を見つけたことによって得た精神的優位による油断が重なり、幸の父のタックルは十二分に威力を発揮した。


 ストラと幸の父は瓦礫の山に転がり落ちる。


「親子揃って……小賢しい……っ!!」


「なんとでも言えよ! こちとらカミさんの命がかかってんだ!」


「人間風情がっ……!」


 転がる二人に向かって全速力で幸は走っていく。


(急げ! いくら弱っていてもストラの攻撃は普通の人間じゃ多分受け止めきれない!)


 その予測は正しかった。どれだけダメージを負っていたとしても、魔力を扱うものとそうでないものには天と地ほどの身体能力の差がある。加えて先の家の横転により父も少なからずダメージを負っていることは明白だった。残酷にも、幸はその予測が正しかったことをすぐに知ることになる。


 膝をとられたストラは姿勢が整わず、二人は瓦礫の山のふもとまで転がり落ちた。だが、落ち切って停止した状態ではさすがにストラを抑えておくことは出来ず、父の腕は簡単に振りほどかれる。そうしてストラは向かってくる幸には目もくれず、幸の父に向き直したかと思うと、次の瞬間、


 ……ゴパッ!!


 という耳を劈く破裂音とピチャッとした水滴の音があたりに響き渡る。


「えっ……」


 時が止まったようだった。


 幸は目を疑った。


 何が起こったのか、理解が追いつかなかった。


「ゴホッ……!」


「フン、手こずらせおって……」


 吐血する父。鮮血にまみれたストラの右手。


 幸の父の腹部はストラによっていとも容易く貫かれていた。



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