第1章 動機と責任
第7話 翌朝 午前10時半
「まぁそうだよな……」
激戦の翌日、たっぷり11時間睡眠したのちに幸は起床した。それは疲れによってか、それとも朝方の寒さによる元来の習慣なのかは定かではない。その日は土曜日だったため、講義がなかったことも一因として考えられる。
歯磨きと遅めの朝食を終え、テレビをつけてみるとどのチャンネルでも怪獣の話題で持ちきりだった。"怪奇!消えた怪獣!"のようなB級映画感満載の見出しばかりが並んでおり、おそらくSNSで収集したと思われる映像をひたすらに流し続けていた。どの番組も見出しや流している映像はほとんど一緒だったが、一つだけ幸の目に留まった番組があった。
"謎のヒーロー...その正体は!?"
「……撮られててもおかしくはないよね。」
遠目ではあったがハッキリと幸の飛び膝蹴りが撮影されていた。顔が判別出来るような距離ではなかったため、個人の特定はまだされていないようだったが既に警察は重要参考人として捜査を開始しているらしい。
正直幸はこのような報道をされて悪い気はしなかった。インタビューでも賞賛や感謝をしてくれる人が多数おり、自分のやった事で人が救われたのだと改めて実感することが出来た。最も感謝すべき中年男性の姿は見えなかったが。
しかし同時に少し複雑な気持ちになった。
(こういうのは警察とかに話すべきか? そうすれば協力も仰げるだろうし……でもそれってつまり……)
シーマの言葉を信じるならば敵は人間の力だけではほぼ倒すことが出来ない。そのため協力をもちかけたとしても結局倒す役目は幸が担うことになる。当然今までの生活を維持することは厳しくなり、怪獣が出る度に駆り出されるという日常になっていくだろう。
"ヒーローになりたい"という夢は未だに持っていた。だが、力を持つことによって生じる責任に対して向き合ったとき、幸は自分の夢の薄っぺらさに気付かされる。
(俺やっぱり最低だ。確かに人には死んで欲しくないと思ってるけど……自分の人生を賭けられるかって言われるとやっぱり……)
そこまで考えていた時に携帯が鳴る。画面を見てみるとどうやら母親からの電話だったようだ。
「もしもし?」
「もしもし!? 大丈夫なのそっちは!?」
「あーニュースの件だよね。大丈夫大丈夫。」
「それなら良いけど……かなりアパートから近い場所だったからもう心配で心配で。父さんと二人で大丈夫かな〜って言ってたところだったのよ。」
「いやーごめんね。こっちから大丈夫だよって言えばよかったね。」
「いいのいいの。とりあえず無事だったんだから。それで……見たの?怪獣は。」
「あ〜……」
幸は迷った。親には話しておくべきかと。両親と相談して今後どうするかを決めるべきなのではないか。
悩んだ末に幸が出した答えは
「どうしたの?」
「いや……俺は見れなかったよ。」
話さないことだった。両親を信用していなかった訳では無い。ただ、これ以上心配をかけさせたくなかった。ほんの少し、自分が我慢するだけで済むのならと相談したい気持ちを押し殺して会話を続けた。その後少しの間雑談した後電話を切った。
(うん、決めた。誰にも話さない。怪獣はその都度倒していけば大丈夫だよね……)
少々楽観的かと幸は思ったが、自分が背負える重圧を加味するとそうすることがベストだと結論づけた。
「あとはシーマさんが帰ってきてから相談しよっと。」
そう言って幸は勉強机に向かった。
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