春画でバッタリ!

夏目碧央

第1話 春画でバッタリ

 本屋で男女が同じ本に手を伸ばし、そこから恋が芽生える―なんて事が本当にあってたまるか。そういうマンガを見ると無性に腹が立つ。丁度良く可愛い女の子が来るわけがないし、俺と同じ本に興味を持つわけがない。

 うちから徒歩圏内にある本屋は、なかなか大きい。地下一階、一階、二階が本屋で、三階は文房具売り場になっている。地下一階は専門書が並んでいて、かなりマニアックなものまで置いてある。そこの日本美術の本棚に、春画に関する本がいくつか置いてある。初めて手にとって開いた時にはびっくりした。かなり誇張して描いてあるものの、男女の営みがハッキリと描いてあるのだから。俺が見たエロマンガは大抵ぼかしてあるのに、ハッキリどころかでっかく描いてある。これは芸術作品だからモザイクかけなくてもいいって言うんだから、世の中分からないものだ。

 このマニアックな蔵書たちに用のある人は少ないので、地下一階はいつも空いている。だから、俺は堂々と春画を立ち読みする。たまに人が近づいてくると、何食わぬ顔で本を戻し、別の日本美術の本を手に取ったりするのだ。

 こんな空いているところで、こんな小難しい本が並んでいる場所で、若者同士がかち合う機会は滅多にない。俺は完全に気を抜いていた。

 いつものように春画を見ようと地下へ降りて行き、日本美術の棚へ直行した俺。辺りには誰も居なかったはずだ。だから、棚の向こう側にいたのかもしれない。いきなり人が現れて、俺が手に取ろうとした春画の本に、そいつも同時に手を伸ばしたのだ。

 指はぶつからなかったが、本に同時に指をかけてしまい、びっくりした。咄嗟に手を引っ込め、相手の顔を見上げた。そいつも俺の顔を見下ろした。

 うっわー、まさかのイケメン。なんでイケメンが春画を見るんだ!そいつは言った。

「これって運命じゃない?」

こんな出逢いなんて嫌だー!でも、惚れちまった。春画を見ようとドキドキしていたからだろうか。本当に、本屋で男女の出逢いはあった。俺も女だったか。

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春画でバッタリ! 夏目碧央 @Akiko-Katsuura

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