昭和っぽい①

「ちょっと……洗濯したいのよね」

 と、なんかもごもごと真希が言った。

「んん? クリーニング出せよ」

 俺は読書してたので、彼女を見ずに言った。

 オーダー用紙に記入してドア前にカゴ置いとけば、持って行ってくれる。

 数日したらまたドア前にいつの間にか置いてある。

 なんか、スーツやコート以外は、ビジホよりわりと安い。

 全て業者任せでなく、できるものは自前のリネン室で洗ってるかもしれない。仕上がりに文句ないし、安いからさらに文句ない。

「ほぼマッパか半裸かバスローブなのに、なんで洗濯物がたまるんだ」

「あのさー、あたしとアンタの最大の違いってわかる?」

「俺の方が頭が良いし博識」

「そういう事じゃなくて」

「俺は向精神薬に頼ってない」

「そういう事でもなくって」

「俺の方がたぶん貯金ある」

 うああああ、といいながら真希は頭書きむしった。

 なんか今日は元気だな。良い事だ。

「そういう事じゃなくって! あたしは女性! あんたはオトコ!」

 はあ?

 あー。

「血ぃついちゃったのか。洗う人も仕事だ。気にしないよ。俺なら気にしない」

「あたしはなんかヤなの。ほんとデリカシーない。そういうトコよアンタ」

「そういうトコが好きなのか」

「そういう、トコ、直せ、って、言ってる、の!」

 俺は枕でボッフボフ叩かれた。

「わかったわかった。地味に痛いからやめろ。しかたない、コインランドリーでも放り込みに行こう」

「えっ。あたし行ったことない」

「そういや、俺も一度しかない」

「えー大丈夫かな……コワイ」

「お前の不安はいつも激安だな」

「ねえ、近くにあるの?」

「その高級カマボコ板に訊いてみろ」

 真希は2秒くらい考えてくれてから言った。

「なにそれ」

 考えてくれてなかった。

 結局、皮肉がまったく通じなかったので俺は自分のスマホで調べる。

 割と近くに一件ある。つーか調べると結構あるもんなのね。

「近くにある。ここなら歩いて15分ないと思う。なんかむしろ、天気が心配」

「じゃあ早く行こ」

 真希は自分のキャリーケースに袋詰めした洗濯物をガンガン詰め込み始めた。

 ついでなので俺のも、入るだけ詰めてもらった。

「そうだ、どうせ待ち時間あるな。部屋の清掃頼んどこう」

「えっ。嘘っ!」

「だってこういう時にしてもらわないと」

「ちょっと待って、部屋片づける!」

 あーもう。またこのパターンか。

「なあ、早くしないと雨降り出すぞ」

「だったら手伝ってよー」

「別に部屋よごしてないから大丈夫だって」

「散らかってるじゃん! だらしないって思われる」

 何の見栄はってんだそれ。

「あーマジ男ってなんでこうなの」

 俺を一般化しすぎるの、世の男性に申し訳ないので、やめてほしい。

 結局、化粧をファンデーションからしようかだのいっそスッピンかだの、迷う時間とノーファンデの時間も加わった。出発まで小一時間かかった。

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