ハニトー・ハニトー

 いきなり備え付けの電話が鳴った。真希がシーツ一枚身体に巻き付けたままずるずる這って行く。

「はい。はい、今出ます」

 メシはそれぞれ腹が減ったタイミングで、フロントに頼んだりデリバリーアプリで頼んだりしている。なので彼女が何をいつの間にどうしたのか知らない。

 まもなく彼女はデコレーションされたハニートーストのバケモノを鼻歌交じりに食い始めた。刻まれた一斤まるごとの上に蜂蜜がぶちまけられて、ミントアイスが乗ってる。

「おまえそれ、一人で全部食うの」

「あげないよ?」

「いらないな」

「じゃあ訊かないで」

 俺は親の仇を見る目で睨まれた。

「いや、なんでそんな食生活で太らないのかなと思って」

「毎食じゃないもん。それにやせ型だもん」

「おまえみたいのは痩せぎすっていうんだ。しかもトランキナイザとビタミンばかり食ってる」

 彼女は咀嚼していて答えない。

「しかも白い。色白っていうより、スケルトンだ。糸こんにゃくの色みたいだ」

 彼女はすごいイヤそうな顔してるが咀嚼しているので答えられない。

「しかも血の気がない。だから青い血管ばかり透けて見える。むしろゾンビっぽい」

 彼女は憤怒の表情になった。だが咀嚼しているので答えられない。

「むしろ毎食それ食った方が良いと思う。さすがに太るから焦る」

 彼女は怪訝な顔をしたが咀嚼しているので答えられない。口に入れすぎだろ。

「太って焦るとどうなるか。痩せようとする。つまり運動する。出るところがしっかり出てくる。顔色もよくなる。いい事ばかりだろう」

「ふるふぁい!」

「ふるふぁい」

「マネしないで」

 人語が返ってきた。やっと飲み下せたか。

「わかった、マネしない」

「わかればいいのよわかれば」

「ごめん。本当にごめん。俺が悪かった。早く食べろよ、アイスが溶ける」

 真希は急に下をむいて、ぷるぷるしだした。

 なんだ。トイレか?

「やめて。急に優しくしないで」

 してないのだが。しかし、肩しゃくりあげて泣き出した。もうダメだコイツ。

「なんだよ泣くなよ。本当にアイスが溶けるぞ」

「泣いて、ない。ほんとうに、やさしく、しないひぇ」

「泣くか食べるかどっちかにしろよ」

 ガチでヤベえなコイツ。


 

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