獅子はウサギにもなんたら

 俺がフロントに頼んだチャーハンを平らげボーっとしていると、

「ねえ、なんか勝負しよ」

 と真希が言いだした。

「いやだ」

「なんで?」

「なんでって」

 彼女は負けるとすごい不機嫌になるし、勝ったら躁みたいなハイテンションになるのでいやだ。

 イッチャった目で飛び跳ねて喜ぶので、怖い。

「むしろ、なんで勝負がしたいの」

「トランプ見つけたから」

「そうなんだ」

「うん」

「他にはどんなのがあった?」

「えっとね」

 白い背中を見せて探しにいった。

 が、スーッと戻ってきた。

「いや違うって。トランプ見つけたからトランプ勝負しよ」

 回避誘導は失敗した。

「でも2人で何するんだよ」

「ババ抜きでいくない?」

「わかった。負けた方は無言ですぐ寝る、という賭けにしよう」

「なにそれ意味わかんない」

「とにかく負けた方は一切しゃべらず即刻眠る。最低一時間。でないと俺は勝負しない」

「ええー? 意味わかんないけどまあいいや」

 そうしてババ抜きをはじめた。

 真希は脳と表情筋が直結回路なので、テが動くたびニヤニヤヘラヘラしたり、世界が終わったような顔をする。

 しかし互いの持ち札が半分ほどになった頃から、ジョーカーは全く真希に入らなくなった。

「ふっふふえへへへ、自分のカンの良さが怖くなる」

 と言って真希はペアを切る。上機嫌だ。

「ほらこう、やっぱ日頃の行いの差とかが出るのよ、こういうのは」

 どんどん彼女はペアを切っていく。

 ラスト、ジョーカーは2枚持ちの俺の手中。

 真希は1枚持ちの二択ターンとなった。

「タイマンでババ抜きって、どーせこうなるよな。途中経過ってなんなんだろ」

 返事がない。ひたすら俺の残り2枚の手札を見つめている。すごい集中力。透視できそう。

 ふと意を決して左のカードに決めたらしく引こうとしたので、俺は全握力で止めた。

「ちょっと、何すんの」

「俺はお前に、このカードを引いてほしくない」

 真希はおもむろに両手で、思いっ切り引っ張ってきた。

 俺は離さない。非力すぎる。

「もー、引かせてよ」

 少し肩で息してる。スタミナなさすぎる。

「いやだ。俺はお前にこのカードを引いてほしくないんだ。お前のためを思って言っている」

 彼女は不安そうな表情を浮かべた。

「何それ、勝ち負けのハナシ?」

「それはちょっとうまく言えない。が、左のカードを引くとお前は不幸になる。だから、させたくない。しかしどうしてもコイツを引きたいというなら」

「ちょっと待って……考える」

 カベか空中に答えがあるみたいに目を泳がせまくって考え出した。

 俺は勝手に続けた。

「しかしどうしてもコイツを引きたいというなら、仕方がない。その決定は尊重しなきゃいけないのでもう止めないけど」

「やめてよ、考えてるって」

「ごめん」

「よし。よーし、決めた」

 凛とした顔で真希はついに左のカードを引いた。

 やはり好奇心に負けたか。当然ジョーカーだ。

「うあっ」

 放心したスキを見逃さず俺は彼女の手にあったカードを素早く抜き取り、当然ペアなので切って勝利を宣言、ブランケットでグルグル巻きにしてベッドに押し込んだ。

「こーいう勝負は最後に選択を迫れる者が勝つんだ。じゃ、おやすみ」

「ちょっとそれってどういうこと!」

「無言で寝る決まりだ」

 というと黙った。

 しかし10分くらいでなんかムニャムニャ呪詛みたいな独り言を唱えはじめた。

 非常にウザいので、

「気づかなかった? 勝負中しばらく全カード数が偶数になってたの」

 と教えたら、混乱したのかまた黙った。

 暫くしたら考え疲れたか知らんが安らかな寝息が聞こえてきた。

 ホントは睡眠薬いらねーだろコイツ。

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