本屋と、秘密の作戦
嶋月聖夏
第1話 本屋と、秘密の作戦
「わあ…、広い…!!」
隣の都市のデパートの三階にある書店を見て、秀は町の本屋の数倍の広さに驚いていた。
「どこを探せばいいんだろう…?」
生まれて初めて入る、大きな書店の中を秀は歩き回る。
「コミックスがいっぱい!すごい!!」
数十冊も並べられていた漫画の単行本にまたまた驚きの声を出していた。
「ええっと…、『マジカルアドベンチャー』の最新刊はどこだろう…?」
小学生から絶大な人気を誇る漫画本を、秀は探し回る。
ふと、レジを見ると、綺麗にラッピングされた本を笑顔で持っていた女の子がいた。隣にいたおばあちゃんから、本をプレゼントされたらしい。
(優ちゃんも、ラッピングした単行本を渡したら、喜んでくれるかな?)
幼稚園の頃から、仲がいい友達の顔を思い浮かべながら、秀は再び探し始めた。
しかし、秀は贈呈用にラッピングした単行本を渡すことが出来なかった。
時間がなかったので店員さんに聞いてみたと事、もう売り切れてしまったのだ。特典のステッカー目当てに買った人が多かったから。
その後、数件の本屋で探したが、どこも同じだった。
重いリュックを背負い、落ち込んだ秀は駅に向かう途中で、その駅の近くに小さな本屋があった事に気づいた。
「もしかしたら…!」
横断歩道を渡り、その本屋へ入る。すると、レジの上に一冊だけ目当ての単行本があったのだ!
「あ、あったあ~!!」
思わず大声で叫んでしまった。
嬉しさのあまり、秀は店員さんに「これ!探していたんです!!」と話す。
するとお姉さんの店員さんは「そうなの、良かったね」と、笑顔で特典のステッカーも渡してくれた。
ようやく見つけた単行本を、リュックの中の参考書と問題集の間に挟む。これで安心した秀は、電車に乗って家に帰ったのだった。
家に帰ると、母親がリビングでお茶を飲んでいた。
『土曜日の午後は、家で勉強するように』と言っていた息子が、黙って出かけていた事へ小言を言い始めたが、秀が「近くの本屋に売ってなかったから」と数冊の問題
集などを見せた瞬間、母親は「言ってくれれば、買ってあげたのに」とため息をついたのだ。
だが秀は「自分で選びたかった」と言い切った。お金は「一か月前に六年生の進級祝いに、お爺ちゃんからもらった図書カードがあったから」と説明した。
隣の市の名門中学に受かるために、参考書を買いに行っていたとなれば、母親は怒れなくなってしまった。
次の日、塾が終った後、秀は優太の家へ寄った。
表向きの理由は勉強会だが、実は勉強が終わった後に漫画を見せてもらうためだ。秀は母親から漫画やゲームは「勉強の邪魔になるから」と、今でも禁止させられて
いるのだ。
それでもやる気がなくならかったのは、優太がこっそり漫画を見せてくれたからだ。優太も同じ中学を目指しているので、秀も必死に勉強をしているのだ。
「そうだ優ちゃん、これ!」
見つからないように隠し持ってきた単行本を、秀は学習塾の鞄から出した。
「これは、一昨日発売された『マジカルアドベンチャー』の最新刊!」
「いつも読ませてくれたから、今度は僕の番、と思って」
「ありがとう!でも、ごめんね…」
「え?」
「実は、昨日通販で買って読んじゃったんだ」
「ええ!?」
もう一足先に読んでいた、と知り、秀は内心がっかりした。
「ステッカーは、ソーディだったんだ。ブレイブが欲しかったんだけどなあ」
通販でも貰えたステッカーに描かれた相棒の剣士ではなく、勇者である主人公の方が目当てだった、と優太が呟いた。
「もしかして、これ!?」
昨日本屋で貰った、ステッカーを秀は差し出す。
「うん!これだよ!秀ちゃんは貰えたんだ!」
いいなあ、と口にした優太へ、秀は
「これ、あげるよ!いつも漫画を見させてくれるから!」
ステッカーを持った手を、ためらいなくさらに少し前へ出す。
「いいの!ありがとう!!」
満面の笑みで大事にステッカーを手にした優太を見て、秀はあの本屋に入って本当に良かった、と思った。
終わり
本屋と、秘密の作戦 嶋月聖夏 @simazuki
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