夢ある場所へ

金森 怜香

第1話

私が岡山へと単身赴任していた時の話である。

単身赴任先は、本屋と言う概念がなかった。

というのも、電車で移動しないと、『本屋』がなかったのである。

雑誌はある程度、スーパーとコンビニに売ってはいたのだが、読みたい本を探すという行為はできなかった。


ある休みの日の事。


「……読み終わっちゃった」

私は本棚代わりのカラーボックスに、菊池寛の「恩讐の彼方に・藤十郎の恋」というタイトルの本を戻す。

気に入って何度も読み返している本だし、わざとゆっくりと読んでいたのだが、読み終わってしまった。


次に手を取ったのは、芥川龍之介の「偸盗・地獄変」と言う本だ。

これも二度ほど読み終わった本である。

元来、速読してしまう性分だがなるべくゆっくりと読んでいたのである。

それでも、やはり二冊程度はすぐに読んでしまった……。


次の休みこそ、電車を使って本屋に行こう……。

私はそう心で決めた。


そもそも、仕事自体も二月になって暇になってしまっていた。

その為、勤務時間が午前中で打ち切られる、急に休みになると言ったことも日常茶飯事になっていた。

自由な時間は確かに増えているのだが……。


私はある日、午前中だけ仕事になったからと、思い切って寮を飛び出した。

そして、電車で移動をし、本屋に向かう。

そして、本屋の最寄り駅で降りる。

一歩、一歩と本屋に向かって歩いていく。

不思議なほど、高揚感を感じた。


実家にいる時も、本屋に行く時は確かに多少の高揚感はあった。

実家は徒歩圏内で大型書店と言える場所が二軒、そして自転車を使えばかなりの本屋がある。

私は本屋には恵まれて育ったのである。

「今日はどんな本に出会えるかな~」

と、故郷にいた時は緩い高揚感だったのだが……。


一ヶ月以上まともに本屋に行けなかったせいもあるのだろう。

「今日はこの作家の本と巡り合いたい! 実家にない本を買いたい」

とギラギラした思いに近かった。


本屋に足を踏み入れて、店内を見渡す。

そこは確かに本屋だ。

正直、そんなに新しくない本屋である。

だが私には、まるで宝石がキラキラ輝いているような、そんな印象に思えてしまった。


本を手に取り、つい気分が高まる。

この感覚だ……、私の好きな感覚は……!

結局、私は6冊ほど文庫本を購入して本屋を出た。


改めて思う。

本屋は本が売っている。

それはまあ当然だ。

同時に、本と人を結び付けてくれる、夢と人の出会う場所だ。

私はそう感じたのである。


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夢ある場所へ 金森 怜香 @asutai1119

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