第78話 つまり、門外不出ってこと
ギリアムお兄様が本棚から何冊か本を取りだした。タイトルは人物図鑑。なんというストレートな名前。どうやらそれらの本には、詳しい人物像が書かれているようだ。
「このあたりがフルート公爵家と関係のある貴族たちかな? 自由に見てもらって構わないけど、外に漏れるとあまりよくない話も書いてあるから、取り扱いは慎重にね」
「分かりました」
オイオイ、そんな危険な代物を俺に渡してもいいのかよ。なんだか内容を確認するのが怖くなってきたぞ。
だが、ここまで来てなんの収穫も得られないのでは意味がない。覚悟を決めて本を開いた。まずはフルート公爵家の人物について書かれている本だ。
そこには絵姿つきで色々と書かれていた。フムフム、初恋の相手とか、そんな情報はいらないんじゃないですかね? だがしかし、絵姿があるのはありがたい。これで顔と名前を一致させることができるぞ。
もちろん人の手で描いた姿絵なので、どこまで本物に似ているのかどうかは疑問だけどね。こんなときに写真があったらよかったのに。トラちゃんの中にはカメラが入ってそうだけどね。
でもそんな魔道具を使ったら、”魂が吸い取られる!”とか言われて大騒ぎになるかもしれない。
人は初めて見る物には恐れを抱く生き物だ。この時代の科学力が発展するまで見送ることにしよう。
「フルート公爵家には私と同じ年齢の女の子がいるのですね」
「そうだね。他にも、私の同級生と、レナードの同級生がいるよ」
「分かりやすい!」
思わず叫んでしまった。それって、王族の誕生に合わせて子供を作ってるってことだよね? 主に王族とのコネを作るために。貴族って怖い。公爵となるからには、そのくらいのことをしなければならないのか。
パラパラとページをめくって子供たちを確認する。どうやらギリアムお兄様とレナードお兄様の同級生はどちらも男性のようである。そして俺の同級生になる子は女性。
……俺の婚約者候補だったりするのかな? もしかして、顔見せの意味もあったりするのかもしれない。
まずはどんな子なのか確認だ。えっと、名前はフルート・フレア。フレアちゃんか。火力が高かったりするのかな? 姿絵はかわいい。そしてツインドリルが装備されているようだ。
高飛車、とは書かれていないな。まずは一安心。スキル継承の儀式で継承したスキルは火属性魔法スキル。なんとなく納得してしまった。
「ギリアムお兄様、火属性魔法スキルってどのようなスキルなのですか?」
「そのスキルはすべての火属性魔法を使うことができるスキルだよ。もっとも、すべてを使えるようになるには、ものすごい訓練が必要だけどね」
「なるほど。すごいスキルなのですね」
「うーん……」
あれ、違うのかな? ギリアムお兄様だって使えるのは上級魔法までだもんね。特級魔法まで使えるようになる火属性魔法スキルはすごいのではないだろうか。
そんな風な疑問が俺の顔に浮かんでいたのだろう。ギリアムお兄様が説明してくれた。
「使いこなすことができればすごいんだけど、どうも魔法を習得するのに時間がかかるみたいなんだよね。それで結局は中級魔法止まりになるのがほとんどなんだ。公爵令嬢なら、初級魔法で終わるかもしれないね」
「もったいないですね」
「そうだね。もったいないよね」
ギリアムお兄様の学者スキルみたいに、研究熱心になる副作用的なものがあればよかったのに、さすがにそれはなさそうだな。でもこれが普通なのかもしれない。
つまり、学者スキルは異常だってこと。
神様から与えられたスキルを完全に使いこなそうと思う人はあまりいないのかもしれないな。
そんなことを思いつつ、主要人物の確認を行っていく。あの貴族は隠し子がいるだとか、夫婦関係がよくないだとか、カツラをかぶっているとか、本当に外には出せないようなことが書かれている。
よくこれだけのことを調べたものである。王家の影の力ってすごい。俺のことも調べられているのかな?
いや、それはないか。だって、王族だもん。
一通りの人物を調べ終わった。さすがは子供の頭。そしてどうやら悪くはない頭のおかげで、一度でほぼインプットすることができたようである。前世でこの能力があったら、もっと楽しい人生を送れていたはずなのに。まあ、終わったことをいつまで考えてもしょうがないか。前だけを向いて進もう。
「ギリアムお兄様、ありがとうございました。大体のことを把握することができました」
俺がお礼を述べると、机の前で作業をしていたギリアムお兄様が手を止めた。仕事があるはずなのに、俺の質問にも嫌な顔一つすることなく答えてくれた。
これはやっぱりお礼の品が必要だな。
「もういいのかい? どうやらルーファスの頭は悪くないみたいだね。どうかな、召喚ギルド長と、ここでの仕事を兼任するというのは?」
もしかしてそれが狙いだったのかな? だがしかし、俺には早すぎると思う。まだ七歳だぞ。いや、成長したときを見越しているのかもしれない。ギリアムお兄様は意外と抜け目がないな。
「考えておきます。今はまだ、召喚ギルドの仕事で手一杯ですからね」
実際にはそんなことはまったくないのだが、そういうことにしておいた。これならギリアムお兄様も無理に引き入れることはないだろう。
「それはありがたい。ぜひとも考えていてほしい」
ニッコリと笑うギリアムお兄様。どうやら俺の答えは、ギリアムお兄様にとって予想通りだったようである。まさか、試された?
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