第61話 つまり、みんなも甘いお菓子が食べたいってこと
お母様に事情を説明してからテツジンを紹介する。今のテツジンは通常状態に戻っているので、先ほどのまがまがしさはない。言うなれば、気のよいおじさんのようである。さすがはテツジン・シェフ。
「なんだかさっき見たゴーレムと違うような気もするけど、ルーファスがそう言うのならそうなのね」
う、よく見ているな、お母様。すぐに気を失ったはずなのに、しっかりと観察していたようである。そんなゴーレムをコンコンとたたき、その触り心地を確かめていた。
テツジンの中は空洞なのか、なかなかよい反響音が響いていた。まさか、ハリボテ?
「プリンというお菓子が食べたくて呼び出しました。私たちだけで食べるのはもったいないと思って、料理長に教えたのですよ」
「母上、プリンは素晴らしい食べ物ですよ。ささ、冷めないうちに食べてみて下さい」
ギリアムお兄様は混乱している。
プリンは元から冷めているんだよな~。むしろ、温かいプリンの方がなんか違う気がするくらいである。温かいプリンとかあるのかな?
そんなことを思っている間に、お母様がパクリとプリンを食べた。
それにつられてなのか、国王陛下もレナードお兄様もプリンを食べた。
三人の目がカッと見開かれる。目と口から光が発せられることはなかったが。
「なにこれ、うまっ!」
おおよそ第二王子らしからぬ声を発した。そこがレナードお兄様のよいところであり、国王の座に座れない理由でもある。レナードお兄様が王位に就けば、国王陛下としての威厳など、あっという間に霧散してしまうだろう。
……国王の座に就きたくないためにわざとやっているのかもしれないけど。
「ふむ、確かにおいしいな。この柔らかくて、ほどけて溶けていくような食感は素晴らしい」
「ええ、ええ、とてもおいしいわ。なんだか幸せになる食感と味ね」
みんながほっこりとしている。これはもしかしなくても許された気がする! お母様を卒倒させてしまったが、そのきっかけを作ったのは国王陛下だからね。国王陛下が疑うような目で俺を見なければ、テツジンを呼び出すこともなかったのだ。
「ルーファス、このテツジンは他にも古代人の料理が作れたりするのかな?」
「例えばどんなのですか?」
地球にいたころに食べたことがある料理の名前を挙げるのは簡単だ。だが、その料理名によっては、ギリアムお兄様でさえも知らない可能性がある。
そんな名前を出したら、ギリアムお兄様がぜひ食べてみたいと言いかねない。そして国王陛下がなぜその名前を知っているのかと尋ねてくるだろう。間違いない。
「そうだな、甘いお菓子で言うなら、シュークリームとか、みたらし団子とかかな?」
「みたらし団子? そんな物まであったんですか?」
「おや、ルーファスは知っているみたいだね」
あ、ヤベ。いきなりの和菓子に思わずツッコミを入れてしまった。だって団子の名前が出るとか思わなかったんだよ。これならあんこもありそうだな。
「えっと、まあ、そんな名前があったような気がして……それよりも、たぶん、どちらも作れると思います。作れるよね?」
『マ』
「作れるそうです」
本当に? みたいな顔をしているギリアムお兄様たち。俺がテツジンと会話しているのを不思議に思っているようだ。
俺とみんなは以心伝心。たとえ言葉が一文字であろうとも、問題なく思いは伝わるのだ。
まあ、それとは別に、俺が召喚した魔法生物なので、俺の記憶の中にある料理は全部再現することができるだろうという自信もあるのだけれどね。あやふやな知識でも、ちゃんとプリンを再現してくれたのだから。
「それならぜひ食べてみたいところだね。国王陛下も母上もレナードも、そう思うでしょう?」
「確かに気にはなるな」
「食べてみたいわね。ギリアムが名前に出すくらいだから、その時代でも人気のお菓子だったのでしょう?」
「疲れたときに甘い物を食べると元気になりますからね。それが新しいお菓子なら大歓迎ですよ」
三人とも、ギリアムお兄様の意見に賛成のようである。これなら作ってもよさそうだな。シュークリームもみたらし団子も料理長に作り方を教えてあげれば、そこからたくさんの人に伝わることになるだろう。
そこで俺が呼び出した魔法生物が再現したものですよ、と宣伝してもらえれば、召喚スキルの宣伝効果もバッチリだ。俺は座して丸もうけである。召喚スキルの宣伝のために、東奔西走しなくてすむぞ。
「分かりました。それでは明日にでも、料理長と一緒に再現してみますね」
「よろしいのですか、第三王子殿下?」
「もちろんだよ。俺は料理長の腕に絶大な信頼を寄せているからね。習得したら、みんなにも作り方を教えてあげてね。俺の物はみんなのものだから」
ニッコリと笑いかける。おだててホイ、である。人それを丸投げと言うかもしれない。でも俺はこの国の第三王子。ちょっとくらいのわがままなら、権力のごり押しでなんとでもなるのだ。ワッハッハ。
「第三王子殿下……ありがとうございます。必ずや、そのご期待にお応えいたします」
ううっ、と声が聞こえる。まずい、料理長をまた泣かせてしまった。貴族がいつもやるような、ちょっとしたテクニックなのに。
みんなもするよね? と家族みんなを見ると、なぜか感動したかのように、みんなが瞳を潤ませていた。
なんだか俺が思っていたのと違う反応を示しているような気がする。そんなにカッコイイことを言ったつもりはないんだけどな。みんな何かを勘違いしてない?
そう思いつつも、聞くのが怖いのでそのままにしておいた。知らぬが仏、ならぬ、聞かぬが仏である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。