第62話 つまり、魔法生物は特別ってこと

 そんなこんなで、明日、みんなにシュークリームとみたらし団子を試食させることで決着がついた。なかなか有意義な夕食だったと思う。

 あとは風呂に入って寝るだけになった俺は、部屋に戻るといつものようにみんなを呼び出した。


「お風呂の呼び出しがあったら協力をお願いね、アクア」

『お任せ下さい』

『あたしも協力してあげるわよ? ダーリン』

「ありがとう。でも今日はお母様と一緒にお風呂に入ることにはならないんじゃないかな?」

『人それをフラグと言う』


 ティアは嫌なことを言うなー。にししと笑っているが、あれ絶対、俺をからかっているだけだよね? 本当にそんなことが起こるとは思っていないはずだ。

 モグランを枕にしてラギオスをモフっていると、なんだか申し訳なさそうな顔をした使用人がやって来た。


「第三王子殿下、おくつろぎのところ申し訳ありません。王妃殿下から呼んでくるようにとの指示を受けております」

「分かった。すぐに行くよ。行くよ、アクア。念のためティアもね」

『主、それはもう確定していると言っているようなものですよ』

「違うから。転ばぬ先の杖だから」


 そう言い訳してから部屋を出る。だがしかし、ラギオスの言った通り、お母様と一緒にお風呂に入ることになってしまった。

 しかも、昨日よりも一緒に入る使用人の数が多い。


 ウワサを聞きつけたんだろうな。お母様も使用人たちからの羨望のまなざしを無視することができなかったのだろう。いつもお世話になっているからね。しょうがないね。でも美人さんに囲まれる俺の身までは考慮されなかったようである。


「疲れた……」


 部屋に戻ってきた俺はバタンとベッドの上に倒れた。そこに涼しくて心地よい風が吹きつけてくる。ティアの風魔法だ。


『お風呂って、疲れが取れる場所じゃなかったっけ?』

『確かそうだと思いますけど』


 ティアとアクアが首をひねっている。二人には分からないだろうな。男の子のあれやこれやの事情が。俺が普通の子供ならよかったんだけど、中身は大人なんだよな~。つらい。

 結局、温泉を入れるだけでなく、お風呂上がりに全員の髪を乾かすことになってしまった。ティアには何かお礼が必要なのかもしれない。


「アクア、ティア、ありがとう。毎日これだと大変だろうから、ちょっと対策を考えておくよ」

『みんなはあたしと同じことができないみたいだもんね』


 そうなんだよね。ティアが使う風魔法にだけしか、髪をキレイにする効果がないのだ。他の使用人たちも使えたらよかったのに。

 でも、どうしてそうなるのかについては考えがある。


 確か、魔法生物たちが活動するためのエネルギーは、創造神が送り込んでいるという話だったはずだ。そうなると、魔法生物たちが魔法を使うときに利用されるエネルギーも、創造神から送られてきたものである可能性が高い。


 たぶんと言うか、間違いなく、地上の生き物が使う魔法と、魔法生物たちが使う魔法は、同じようで別物なんだろうな。それが原因でティアの使う魔法の効果が他とは違うのだと思う。

 あれ? これってもしかして、俺が毎日お母様の髪を乾かさないといけなるなるのかな?


「むむむ、これはまずいかもしれない」

『若様、どうされましたか?』

「ああ、えっと……」


 俺一人で考えてもいい案が出そうになかったので、そうそうにみんなの知恵を借りることにした。三人寄れば文殊の知恵である。きっと俺では思いつかなかったようなアイデアが浮かぶことだろう。


『それならティアだけ連れて行ってもらえばいいのではないですか?』

「なるほど、その手があったか。さすがはラギオス」

『え~? ダーリンも一緒に来ないとやる気が出ないな~』

「そこをなんとか。神様、仏様、ティア様!」


 なんとか拝み倒してティアからの了承を得なければならない。

 つまり、ティアには逆らえないってこと。


『もう、しょうがないな~。ダーリンがそこまで言うならやってあげるわよ。ママさんたちと一緒にお風呂に入ればいいのよね?』

「さようでございます、姫」

『うむ、苦しゅうないぞよ』


 これでよし。悩みの種の一つがなんとかなりそうだぞ。あとはこの話をお母様にしてから了承を得るだけだ。

 温泉と髪を乾かすことの二つを人質にすれば、間違いなくオーケーをもらうことができるだろう。この勝負、戦う前から勝敗が見えているな。


「ティアには何かお礼をしないといけないな。プリンはどうだった?」

『不思議な感じだったわ。あれが食べるということと、おいしいということなのかしら?』

「それに加えて、甘いと幸せも混じっているかもしれないね」


 なるほど、とみんなの顔が真剣な様子になっている。そんなに思い悩むようなこと言ったっけ? もしかすると、魔法生物はその辺りの感覚が鈍いのかもしれない。

 セルブスとララが呼び出した魔法生物には感情もないみたいだったけどね。


「魔法生物とのコミュニケーションの取り方か。俺がやっているみたいに、普段から魔法生物を召喚して話をしたり、一緒に食べたり、笑ったりすると、自分の考えで動くようになるのかもしれないな。よし、明日からセルブスとララに試してもらおう」


 二人が呼び出した魔法生物は、見た目は俺が呼び出した魔法生物と同じである。それならば、俺と同じように魔法生物と接することで、お互いの理解が深まり、感情が芽生えるのではないだろうか。


 実際に今も、食べ物を食べさせたことで新しい感情を獲得しているように思える。もしかすると、魔法生物の真価はまだまだ発揮されていないのかもしれない。

 それなら俺がその真価を引き出してあげなければならないな。だって、俺の大事な相棒たちだからね。

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