第48話 つまり、もう一回、遊べるってこと
あってはならないネクタルだが、もしかしてトラちゃんの中に入っているのでは? といういらぬ期待が頭をよぎってしまった。こうなると調べてみたくなってしまう。俺もギリアムお兄様のことは言えないな。
「ルーファス・エラドリアの名において命じる。顕現せよ、トラちゃん!」
『お呼びでしょうか?』
「今日も目録の確認を手伝ってほしい」
『もちろんです。……もしかして、それ全部ですか?』
さすがのトラちゃんもドン引きのようである。正直でよろしい。俺は無言でうなずいて、残りのみんなも呼び出した。昨日、新たに召喚した仲間をみんなにも紹介しなければいけないからね。
俺が呼び出したモグランとアクアを、セルブスとララも興味深そうに見ている。昨日のうちに、新しい魔法生物を呼び出した話がちゃんと伝わっていたようで、それほど驚いた様子はなかった。
「タイタンは土魔法が、ウンディーネは水魔法が使えるよ。庭仕事をしたり、水やりをしたりするときに便利だと思う」
「それはうれしいですね。庭の手入れはいつも妻に任せっきりでしたからね。ようやく私も面目を保つことができそうです」
「これならいつでも水が飲めますね」
自力で水が出せるかどうかは生命を維持する上で大事なことだからね。水が出せるだけで、より遠くまで旅することができるようになるのだ。
セルブスとララにはモグランとアクアを観察してもらいつつ、俺はさっそくトラちゃんに質問した。もちろん、他の人に聞こえないようにこっそりとである。
「トラちゃんの中にネクタルってある?」
『えっと、ありますね』
もう一回、遊べるドン! あったらマズイやつがあったわ。復活剤は現在の世界には存在しない。世紀の大発見である。この本物の復活剤を研究したいと思う人は大勢いることだろう。
もちろんギリアムお兄様もその一人のはずだ。
これは外には出せないぞ。俺は目録の中にある”ネクタル”の項目にバツ印をつけた。許せ。世界の平和を守るためだ。あと、ギリアムお兄様を守るためである。
ネクタルなんて代物を見せれば、寝食を忘れて調べ上げることだろう。その結果、ギリアムお兄様に訪れるのは破滅の未来。そんなフラグはここで俺がへし折っておかなければならない。俺は何も聞かなかった。
「はぁ。えっと、次だ、次。マッスルヒロポン? 一年間、寝ずに働くことができる? これもアウトー! まともな魔法薬が書かれてない!」
『えっと、ありますね』
「出さなくていいからね?」
あるんかい。なんでも入ってるなー。これ以上は聞くのが怖い。そんなわけで、俺は目録の効果の項目を読みながら、”これなら出しても大丈夫そうだ”と思うものだけを調べることにした。残りは全部バツにする。
許せ。俺がトラちゃんに尋ねなければ、それは存在しないことになるのだ。
「ヒィハァ、ヒィハァ……」
「ルーファス様、国王陛下は午後からこちらへ来られるとのことです」
「バルト……ありがとう……」
「ルーファス様!」
バルトの報告を聞くが、息も絶え絶えだ。それなのに、ギリアムお兄様から届けられた目録の山はほとんど減っていない。
その一方で、俺の精神力は大幅に削られていた。だって、世の中に出しちゃダメなやつばっかりなんだもん。そしてその出しちゃダメなやつの名前だけが俺の中に蓄積されていく。記憶力がいいのも考え物だな。
『主よ、そろそろ休憩にした方がよいのではないですか?』
「そうだね、そうしよう。ララ、お茶を……」
「ルーファスはいるか? うわ、なんだこの書類の山は」
ノックもそこそこにレナードお兄様が召喚ギルドへとやってきた。何かあったのかな? そして机と床の上に積まれている目録を見て、レナードお兄様の顔が思いっきり引きつっている。
だがすぐにそれがなんなのか察してくれたようである。哀れむような目で俺を見ていた。
「ルーファスも大変だな。これはギリアムお兄様から、追加の目録がまだまだ送られて来そうだぞ」
「やめて下さいよ。私もそんな気がしているところなのですから。ところで、何かご用ですか?」
「おっとそうだった。昨日の温泉を、騎士たちが入る大浴場にも入れてもらえないかと思ってさ。毎日じゃなくてもいいんだ。考えてもらえないか?」
さすがはレナードお兄様。自分だけでなく、ちゃんと周りの人、それも身分を問わずにみんなのことを見ている。俺もそうしたいと思っていたところなので好都合だ。毎日でなくていいなら、なおさら都合がいい。
「もちろんですよ。私もそう思っていたところです」
「ルーファスならそう言ってくれると信じていたよ。俺が温泉の話をしたら、みんなが羨望のまなざしで見てくるようになったから、ちょっと困っていたんだ。特に女性騎士からの視線が熱くてね」
そうだろうな。昨日とは打って変わってツルツルピカピカになったレナードお兄様が現れたら何事かと思うだろう。そしてそれが温泉の効用だと聞けば、自分も入りたいと思うのは容易に想像できる。
それにケガの痛みも消えるとなれば、何をか言わんやである。
「ギルド長、温泉って先ほどおっしゃっていた、ウンディーネの能力のことですよね?」
お茶を入れながらララが聞いてきた。その視線はレナードお兄様の肌をチラチラと見ていた。
俺の肌の変化に気がつかなかったが、レナードお兄様の肌の変化には気がついたようである。
ララも女の子だもんね。美肌効果があるとなれば気になるよね。まさか一緒にお風呂に入ろうと誘ってくるかな? もう、しょうがないなぁ。
『主……』
ラギオスが汚物を見るような目で俺を見ているのが印象的だった。そんなに他の人には見せられないような顔をしてた? 鎮めなきゃ。
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