第47話 つまり、あきらめろってこと

 そこからのギリアムお兄様のテンションはとても高かった。今すぐ温泉をくみに行こうとしていたが、現在、お風呂にはレナードお兄様が入っているようである。

 使用人に止められたギリアムお兄様は”中には入らないから。入り口までだから”と言いながらサロンから出て行った。


「私は部屋に戻って寝ることにしますね」

「それがいいわね。ギリアムが戻って来たら、質問攻めにされるわよ」

「デスヨネ」


 そう言ってお母様がため息をついた。国王陛下も苦笑している。どうやら三人の意見が一致したようである。レナードお兄様の感想も聞きたかったが、自分の身の安全が最優先だ。


 学者モードになったギリアムお兄様に捕まったら、日付を越えるまで解放してくれないだろう。

 国王の座に就くころには、あの衝動は抑えられるようになっているよね? さすがに国務を放り出してまで調べに行ったりしないことを願うばかりである。




 翌日、いつもの朝の鍛錬をしていると、レナードお兄様がやってきた。その肌はツルツルである。どうやら温泉の効果はしばらく持続するみたいだな。俺はまだ若くてピチピチだから効果が分かりにくかったけど、美容には疎いところがあるレナードお兄様がツルツルしているとよく分かる。化粧水とか使っていないだろうからね。


「聞いたぞ、ルーファス。昨日の風呂は温泉だったそうだな。体の痛みがキレイサッパリなくなったからビックリしたぞ」

「体に痛みがあったのですか? ちゃんと治癒師に治療してもらわないとダメですよ」

「分かってるって。昨日、母上からも同じことを言われたからさ」


 ならばよし。お母様から小言を言われたのなら、これからは善処してくれることだろう。だがしかし、絶対にやるとは言っていないはずである。ちょっとしたケガならツバをつけておけば治ると言い張ることだろう。


「レナードお兄様、ギリアムお兄様の姿が見えないのですけど、もしかして?」

「ああ、ルーファスの察しの通り、寝る間を惜しんで温泉を調べているみたいだな」

「やっぱり。ギリアムお兄様のあの体質は治らないのですか?」

「昔からだからな。もう無理だろう」


 あきらめんなよ、と言いたいところだが、レナードお兄様の目が悟りを開いたような遠い目をしていたので、その言葉は飲み込んでおいた。そうだよね。治るのなら、もう治っているよね。ギリアムお兄様につける薬はなかったようである。残念。


 朝の鍛錬と朝食を終えて召喚ギルドへ向かうと、テーブルの上に山のような書類が置いてあった。何事!? いや、違う、床にも書類が置いてあるぞ!


「おはよう、セルブス、ララ。一応、聞くけど、この書類は何かな?」

「おはようございます。そちらの書類は昨日、第一王子殿下が持って来た目録になります」


 やっぱりね。多すぎだろ! 本に名前が残っているものを全部書いたんじゃないかと疑うほどの量である。

 国王陛下はこのことを知らないだろうなー。どうしよう。報告するべきだろうか?


 ちょっと気になったので、目録をいくつか確認する。これは古代人が使っていた服なのかな? えらく細かく分けられているな。名前からしていかがわしい物なんかも含まれているんだけど、分かってやってるのかな?


「マイクロビキニって、あっても出しちゃダメなやつだろ」

「どうかなさいましたか?」

「いや、なんでもないよ、ララ。ララは新しい魔法生物を呼び出せるようになったかな?」


 慌てて頭によぎった”マイクロビキニを着たララの姿”を打ち消した。まずいな。ララの体型なら、絶対にマイクロビキニがはじけ飛ぶ。けしからん。

 二人の成果を見せてもらうと、セルブスがライトモスを召喚できるようになっていた。


 ララももう少しで召喚できそうな感じである。体からフワッと光が出るようにはなっているんだけどね。形作られるまではもう一歩というところである。


「ありがとうございます。ルーファス王子のおかげで、私も新たな魔法生物を呼び出せるようになりました。昨日はうれしくて、年がいもなく家族に自慢してしまいましたよ」


 自嘲気味に笑うセルブスだったが、どことなくうれしそうな印象を受けた。これでセルブスも、擬似的にライトの魔法を使えることになったからね。暗い夜道も安心である。

 そんなセルブスの様子を見て、ララが両手の拳を握っている。今にも”がんばるぞい”とでも言いそうである。


 それだけ気合いが入っているのなら、今日中にはララもライトモスをマスターできそうだね。ララのためにセルブスがライトモスを召喚している。見た目は俺のマリモとそっくりである。でも俺のマリモみたいに転がったりはしないみたいだけどね。


「バルト、国王陛下に、ギリアムお兄様から山のような目録が届いたことを伝えてきてくれないかな? さすがにこの量を全部調べるのは大変だと思う。一度、現状を見に来て下さいってね」

「承知いたしました。すぐに行って参ります」


 よしよし、これでギリアムお兄様からの目録の手当は大丈夫だろう。だが、さすがに全部調べないわけにはいかないので、面白そうな物だけ調べることにしよう。

 なになに、ネクタル? なんだこれ。あ、すぐ隣に効用が書いてあるな。さすがはギリアムお兄様。手抜かりがない。


「……復活剤とか、存在したらダメなやつだろう」


 なんだか頭が痛くなって着たぞ。ギリアムお兄様はそんなものを手に入れてどうするつもりなのだろうか? ちなみにこの世界に死者を生き返らせる魔法は存在しない。死んだら等しく終わりなのだ。王族や高位貴族、お金持ちだけが”もう一回、遊べるドン!”するのは許されないだろう。

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