第42話 つまり、お母様の目はごまかせないってこと
「実はお兄様、その植物を育てたのは私が呼び出した魔法生物なのですよ」
「……え?」
「本当です。ルーファス・エラドリアの名において命じる。顕現せよ、タイタン!」
『監督、お呼びなんだな?』
初めてモグラを見たのだろう。ギリアムお兄様が目を見開き、その口元は引きつっている。確かに奇妙な見た目はしているな。それに普通のモグラよりも大きい上に、頭には黄色い安全ヘルメットを装着しているからね。驚きもするか。
「この子はモグランと言う名前です。庭仕事が得意で土魔法を操ることができます」
「なるほど。それで、どうしてルーファスは花壇なんて作ろうと思ったのかな?」
うーん、これはまずレナードお兄様のやらかしのことを話さなければいけなそうだぞ。許せ、レナードお兄様。ここでレナードお兄様をいけにえにささげれば、俺に向かうはずだった、ギリアムお兄様の目力が分散されるはずだ。
俺は包み隠さずに、先ほどの出来事の詳細をギリアムお兄様に話した。それを聞いたギリアムお兄様は眉間に寄ったシワを指でほぐし始めた。
「なるほど、大体分かった。レナードにはもっと魔法の鍛錬もするように言っているんだけど、あまり効果はないみたいだね」
笑顔を浮かべるギリアムお兄様。だがその目は笑ってはいなかった。どうやらレナードお兄様はギリアムお兄様のありがたいお小言を、右から左へ受け流しているようである。
まさに馬の耳に念仏である。そりゃ、ギリアムお兄様もムッとするか。
「それでモグランの力を試そうとして花壇を作ったんだね。ちゃんと母上に許可を取ったんだろうね?」
「それが……取ってません」
「うーん、それは困ったな。母上に見つかると面倒なことになりそうだぞ」
「あら、私に見つかると何が面倒になるのかしら?」
ギリアムお兄様と同時にバッと後ろを向くと、そこにはお母様の姿があった。なんてこった! なんという間の悪いタイミング。これからどうするかギリアムお兄様と話し合うところだったのに。
「二人とも、顔にしっかりと出てるわよ? 何かあったってね。さあ、何があったのか話しなさい」
ジ・エンド。ルーファスの冒険はここで終わってしまったようだ。気まずい感じでギリアムお兄様と目を合わせていると、お母様がモグランに気がついたようである。
「ルーファス、この子は一体、何かしら?」
「その子は私が先ほど呼び出したモグランです。かわいいでしょう?」
どうやらお母様も肝が据わってきたのか、多少の見慣れない生き物くらいでは倒れなくなったようである。さすがの適応能力だな。だてにトカゲの姿をしたカイエンをかわいいと言っていない。
「確か召喚スキルは想像した魔法生物を呼び出すことができるのよね? ルーファスの想像力が一体どうなっているのか、気になるところだわ」
口元を扇子で隠しながら、ちょっとあきれたような声色を発したお母様。しかし興味はあるのかモグランを触って、その毛並みを確かめている。モグランはお母様を驚かせないように直立不動である。
頑張れモグラン。そのままお母様の興味を引きつけるんだ。
「母上、実はそのモグランのことを話していたのですよ」
ここぞとばかりにギリアムお兄様が話しかける。どうやらモグランの話をしていただけに収めたいと思っているみたいだ。
同感である。もし、庭でレア素材が取り放題だということがお母様にバレてしまえば、あきれを通り越して気絶するかもしれない。それはまずい。
「そうなのです。モグランは土魔法が使える、すごい魔法生物なのですよ!」
「そうなのね。ちなみに、どんな土魔法が使えるのかしら?」
「え? なんでも?」
「どうして疑問形なのよ。まさか、言えない事情があるのではないでしょうね?」
う、鋭い! ギリアムお兄様が”うわぁ”みたいな顔で俺を見ている。俺のせい? 俺のせいなの!? 俺じゃなくて、お母様が鋭いだけだよね。
そんな俺の反応を見て、お母様はますます疑惑を強めたみたいだ。顔の上半分が暗くなっているような気がするが、その口元はとっても笑顔だ!
どうしよう。ここはもう一度、レナードお兄様をいけにえにささげて……そう思っていると、元気を取り戻したレナードお兄様がやって来た。これはますます混乱する予感がする!
「何やら不穏な空気に思えるのですがどうしたのですか? ああ、またルーファスが何かやったのですね」
オマエモナ! と言いたいのをグッと堪える。確かに今のこの状況を見れば、俺が何かをやらかしたようにしか見えないだろう。だって、お母様が俺をロックオンしてるのだから。
恨みがましくレナードお兄様を見ると、バツが悪そうに目をそらせた。どうやら自覚はあるらしい。そしてそんな俺を救おうと思ったのか、レナードお兄様がふと、テーブルの上に置かれているものに目を向けた。
まずいですよ、お兄様! それ、地雷ですよ! 危険が、危ない!
「ギリアムお兄様、なんだか見慣れない植物を持ってますね。それは一体、なんなのですか?」
「え、いや、これは、その……」
お母様の視線がそちらを向いた。
逃げるなら今しかない。
だがしかし、いくら命令しても俺の足は一歩も動かなかった。
分かってる。ここで逃げても、絶対に捕まる。大魔王(お母様)からは逃げられないのだ。
俺とギリアムお兄様は、観念してことのあらましを話す他なかった。もちろん、レナードお兄様も巻き添えである。元はと言えば、レナードお兄様が庭に穴を空けたのが原因だからね。
問題を大きくしたのは俺とギリアムお兄様かもしれないけど、連帯責任である。ギリアムお兄様からすると、俺が一番の原因だと思っているかもしれない。でも、そもそもギリアムお兄様が無断で庭の草花を採取しなければこんなことにはならなかったのだ。よって同罪である。異論は認めない。
そして俺たちの話を聞いたお母様はその場で気を失った。
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