第41話 つまり、レア素材ばっかりってこと

 ようやく成長が止まった小さな花壇には、見たことのない草花ばかりが生えていた。

 これでも俺はこの世界のことをよく知るために、図書館でたくさんの図鑑を見てきた。その中には当然、植物図鑑もある。


 写真ではなく、手書きの絵ではあったが、かなり正確に描かれていたので、見間違えることはないはずだ。

 それなのに、ここに咲いているのはどれも見たことがなかった。


「これ、一体なんの植物だろう。バルト、レイ、なんだか分かる?」

「いえ、分かりかねます」

「初めて見る品種です」


 二人もお手上げのようである。それならしょうがないね。ここは学者スキルを持つ、ギリアムお兄様を呼んでくるのが正解なのかもしれない。正解なのかもしれないんだけど、ちょっと聞くのが怖いな。このまま何事もなかったことにしておこう。


「よくやったよ、モグラン。とっても素晴らしい花壇だ」

『監督にほめられてうれしいんだな』

「アクアも、よくやってくれたよ」

『大したことではありません』


 ここぞとばかりに二人をなでる。モグランはツルツルでちょっと剛毛な手触りだな。他のみんなとはちょっと違う、男らしい感じである。こういう手触りが好きな人もいると思う。


 その一方でアクアはポヨンポヨンとしており、弾む感じである。マリモよりも柔らかいかな。この上に乗って寝ると、とても気持ちよさそうである。

 そうして一仕事終えた俺は、足取りも軽く、召喚ギルドへと戻った。


 そこからはギルド長としての仕事をするべく、書類作成や、セルブスとララの修行の具合を見ながら一日を過ごした。二人とももう少しでライトモスが召喚できるような気がする。さすがにフェアリーはまだ無理そうだったけどね。


 夕食の時間が近づいたので、一度、みんなを還してから、早めに王族専用のダイニングルームへと向かった。今日の昼食はあまり味がしなかったからね。夕食はおいしく食べたいものである。それもあって、早めに足が向いてしまったのかもしれない。


 だがしかし、そんな俺の気持ちは、ダイニングルームへ足を踏み入れた瞬間にもろくも崩れ去ってしまった。

 そこにはすでにギリアムお兄様の姿があったからだ。


 もちろん、ただギリアムお兄様が早めにダイニングルームへ来ていただけなら、なんの問題もない。問題があるのはその手元である。そこにはつい先ほど目にした、見慣れない草花があったのだ。間違いなく、ギリアムお兄様が収穫したものだろう。


「ギリアムお兄様、それはなんですか?」


 笑顔でギリアムお兄様に話しかけたが、俺の背中には滝のような汗が流れていた。パンツまでビッショリである。お風呂の前でよかった。

 俺が話しかけると、ものすごくイイ笑顔を浮かべたギリアムお兄様が、まるで飾り切りを入れたシイタケのような目でこちらを見てきた。


「知りたいかい? やっぱりルーファスも知りたいよね!」

「し、知りたいです。でもその前に、どこでそれを手に入れたのですか?」


 頼む、実はギリアムお兄様がどこか遠くの国から取り寄せた珍品であってくれ。その可能性だって、なきにしもあらずなのだから。


「これはね、お母様が手入れしている中庭で見つけたんだ。きっとお母様が育てた物だと思うんだけど、ちょうど収穫するころ合いだったんだよね。これ以上放置すると質が悪くなるから、採取してきたんだ。話せばお母様も分かってくれると思うよ」


 が、ダメ! しかもギリアムお兄様、お母様が育てたと思ってる! これはまずい、ような気がする。そしてそれはギリアムお兄様が持つ草花が一体なんなのかによって、さらに重みが変わってくるのだ。


 聞きたくないけど、聞かなくては。場合によってはこの場でギリアムお兄様に”私がやりました”と言って、お母様に伝わるのを阻止しなければならない。


「なんという名前の草花なのですか?」


 ギリアムお兄様がニンマリと笑顔を浮かべる。あ、ダメそうな気がする。


「まずはこの葉っぱから話そう。これは世界樹の葉だよ」

「世界樹の葉!? それって世界樹の木から採取できるものじゃないんですか?」

「私もそう思っていたんだけど、違ったみたいだね。どうりで見つからないわけだよ」


 何度もうなずくギリアムお兄様。これは論文に書くつもりだな。でも本当にそうなのかな? 色々と間違っているんじゃないだろうか。確認できないからどうしようもないけどね。


 世界樹の話なんておとぎ話でしか聞いたことがない。そんな”世界樹の葉”のことを知っているだなんて、さすはギリアムお兄様である。

 でも知っていてほしくなかったなー。それならスルーされた可能性だってあったのに。


「次はこっちの花なんだけど、ゴールデンローズの花だよ。ウワサには聞いていたけど、初めて見た。ほら、見てご覧。花の奥が金色に輝いている」

「ほ、本当だ。本物の金なのですか?」

「金どころではないよ。金よりもずっと価値が高い」


 大事そうにしているところを見ると、相当、レア度の高い花なんだろうな。その他にも、悟り草やプラチナソニア、ワイルドソラ、復活草などの名前があがっている。

 うん。全部、何に使うのかサッパリ分からない。魔法薬を作るのに使うのかな?


「それでギリアムお兄様、売ったら全部でどのくらいの価格になるのですか?」

「これを売るだなんてとんでもない!」


 クワッと目を大きく広げてギリアムお兄様が叫び声をあげた。そんなにか。そんなにすごい素材ばかりなのか。これは自首した方がよさそうだな。その上で、ギリアムお兄様を口止めしよう。

 もし話したら、二度とそれらの素材が手に入りませんよってね。

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