第40話 つまり、草生えるってこと

「バルト、レイ、あの一角を使いたいと思うんだけど、いいかな?」


 俺は中庭のあいたスペースを指差した。そこはこれから何かをするつもりなのか、小さいスペースながらもちょっとした空き地になっているのだ。

 この場所ならモグランの力を試してもいいのではなかろうか。


 王城へ続く道沿いにある庭に手を入れると色々と目立つかもしれないが、ここなら王族しか来ることがないからね。手を加えたところで、大した問題にはならないだろう。


「それは構いませんが、万が一のことを考えて、国王陛下に相談するのがよろしいのではないでしょうか?」

「国王陛下に? うーん、それが一番なんだろうけど、昼食の時間も忙しそうだったからね。この程度のことで手を患わせるのはちょっとはばかられるな。事後報告でもよくない?」

「ルーファス様がそれでもよろしいのであればそれでも……」


 これでよし。二人からの許可も出たことだし、さっそくモグランの隠された力を引き出してみることにしよう。そんな物があるのかは知らないけど。


「あの場所に花壇を作ろう。モグラン、できる?」

『もちろんなんだな。監督、どんな花壇がいいんだな?』

「どんな? そうだな、せっかく作るのなら、珍しい草花が咲く花壇にしよう。この場所に咲いていない植物で花壇を作ってよ」

『任せるんだな』


 両手の長い爪を使って庭の土を耕し始めたモグラン。その顔はとてもうれしそうである。

 つややかなこげ茶色の毛並みは触るととても気持ちがよさそうである。終わったらほめると同時になでよう。決めた。


『主よ、モグランにそのようなことをさせてもよろしいのですか?』

「なんで?」

『ラギオス殿は若様がまた問題を起こすのではないかと心配なのですよ。それがしも同感です』

「ちょっと、人を”歩く問題児”みたいに言わないでよね。それはレナードお兄様だけで十分だからさ」


 庭の片隅をいじるくらい問題はないはずだ。この場所はお母様もときどき手を入れているからね。俺がダメならお母様もダメなはずである。

 そうこうしているうちに、モグランが花壇をこしらえていた。


 いや、本格的だな。その花壇を囲っているレンガ、どこから出した? 土を操ることができるから、その延長で出したのかな。

 出来上がった花壇には黒々とした、フカフカの土が敷き詰められている。見ただけで肥沃な土だと分かる。


『完成したんだな』

「さすがモグラン。庭師たちの仕事よりもずっと速い」


 これは庭師たちには見せられない光景だな。絶対に自信をなくすことになるだろう。もうアイツ一人でいいんじゃないか? と言われること間違いなしだ。

 まだなんの植物も生えておらず殺風景なのだが、そのうち何か生えてくるのだろう。その日が今から楽しみだ。


『監督、水がほしいんだな』

「水か。ラギオス、水を出せる?」

『もちろんですよ。この辺り一帯が水浸しになりますがよろしいですか?』

「それはよろしくないねー」


 バルトとレイに頼むか? 二人は生活魔法を使えるはずだから、水やりくらいはお手の物だろう。

 だがちょっと待ってほしい。それだとなんか負けた気がする。


 こんなときは召喚スキルだ。水やり用の魔法を使える魔法生物を召喚するのだ。持っててよかった、召喚スキル。


「ルーファス様、我々が……」

「フッ、その必要はないよ」

「あー、えっと」


 アワアワする二人。また俺が何かやらかすとでも思っているのだろう。失礼だぞ、キミたち。俺は同じ失敗を何度も繰り返すような、浅い男ではないのだよ。レナードお兄様みたいにね!


「ルーファス・エラドリアの名において命じる。顕現せよ、ウンディーネ!」

『お呼びでしょうか、ご主人様』


 現れたのは半透明の水色をしたスライムである。今は幼女のような人型をかたどっているが、本来は水まんじゅうのような形をしているはずだ。

 きっと俺を驚かせないようにそのような形をしているのだろう。


 ちなみにこの世界には魔物にもスライムがいるが、そっちは水まんじゅう型ではなく、雨上がりの水たまりのような形をしている。俺からすると、スライムというよりかはアメーバと呼んだ方がいいのではないかと思っている。


「ウンディーネ、この花壇にだけ水をあげてほしいんだ。間違ってもこの辺り一帯を水浸しにしないようにね」


 そんなことはないだろうが、一応、念のために言っておく。ラギオスに頼んだらそうなっていたみたいだからね。

 どうやら強力な魔法生物は細かい魔法の扱いが苦手なようである。そこはうまい具合に使い分けないといけないな。

 つまり、適材適所ってこと。


『かしこまりました』


 ウンディーネが両手からシャワーのような細かい水を放出した。その水がいい感じに黒くてフカフカの土を湿らせていく。あっという間に水やり完了だ。やりますねぇ。


「ありがとう。よくやってくれたよ。えっと、アクア」

『このくらいのことなら、造作もありませんわ』


 とても丁寧な受け答えをするアクア。どうやら育ちがいいみたいだな。それに比べると、ティアはちょっとがさつなのかもしれない。本人の前で言うと怒られそうだけどね。


『主よ、見て下さい。草が生えてきましたよ』

「え、そんなばかな」


 アクアから花壇へと目を移すと、緑色の芽がいくつも土から飛び出していた。

 成長、早くない? これもモグランの能力なのかな。

 腕を組んで首をひねっている間にも、どんどんと大きくなっていく植物たち。


「はわわ、これってまずくない!?」

『だから言ったのに。私は知りませんよ』

「ちょ、ラギオス、そんな~」


 とりあえずラギオス吸いをして落ち着かなきゃ。それにしてもどこまで育つんだ、この植物たち。それに分かっていたことけど、見たこともない植物ばかりだぞ。

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