第39話 つまり、安全確認よしってこと

 バルトとレイが戻って来たことだし、気分転換に外に出ることにしよう。その間にララは、おチュンとマリモとティアのスケッチをベアード先生から習うようである。よろしく頼みますよ、ベアード先生。


 それにしても、ララがずいぶんと意欲的になっているな。実によいことだ。バードンを呼び出すことができたことで、自信がついてきたようである。


「庭に散歩に出かけるよ。ラギオスも一緒に行こう」

『もちろんです』

「あとは、カイエンも連れていこうかな。トラちゃんは午前中に頑張ったからお休みだね」


 トラちゃんを還してから、胸のポケットにカイエンを入れる。ちょうど頭が出るくらいの大きさなのでちょうどいいな。

 子犬サイズのラギオスを抱いて庭へと向かう。


 この庭は王族しか来ることができない場所にあるので、気兼ねなく散策することができるのだ。

 今の時期には色んな種類の花が咲いているので、歩くだけでも気持ちが安らぐだろう。


「あ、レナードお兄様もお散歩ですか?」

「やあ、ルーファス。考えることは同じみたいだね。さすがは兄弟だ」


 先ほどのララと同じようにゲッソリとした顔になっているレナードお兄様がそこにはいた。さすがに昼食でのダメージが大きかったようである。今日はもう再起不能かな?

 そんなことを思っていると、庭の片隅に小さな山ができているのを見つけた。なにこれ?


「レナードお兄様、こんなところにこんなものありましたっけ?」

「あ、やっぱり気づいちゃった?」

「……何をやったのですか? 怒らないから話して下さい」


 挙動不審になるレナードお兄様。どうやらこの小さな山を作った犯人はレナードお兄様のようである。

 話を聞くと、むしゃくしゃしてここで剣を振っていたら、勢い余って地面に穴をあけてしまったらしい。今は反省しているそうである。


 それで慌てて魔法で穴を塞いだのはいいが、このような小さな山になってしまったらしい。

 ……レナードお兄様の魔法、大ざっぱすぎない? この辺りは性格が出るのかな? それとも、剣聖スキル持ちはみんなこうなのだろうか。


「それでは、穴を掘る魔法で山の部分を削ればよいのではないですか?」

「そうなんだけどね」


 そう言いながらレナードお兄様が魔法を使うと、今度は穴があいた。再び魔法を使うと、今度は小さな山に。不器用か!


「ギリアムお兄様を呼んで来るのが早いのではないでしょうか?」

「そうなんだけど、忙しいんじゃないかな? それに、お兄様から母上にこの話が伝わるのではないかと危惧している」


 おそらく後半が本音なのだろう。まだ舌の根も乾かぬうちに問題を起こしたとなれば、今度こそ、一日中、書き取りをすることになるだろう。

 もしかして、俺よりもレナードお兄様の方が問題ばかり起こしているのでは? 俺のやらかしなんてかわいい方だよね。


「ルーファス、なんとかならないかな?」

「なんとかですか? まあ、やるだけやってみますけど」


 もう、しょうがないなぁ。そんな橋の下に捨てられた子犬のような目をされたら、さすがに断れないよね。

 さてどうしたものか。土、土……土を操る魔法生物。よし。


「ルーファス・エラドリアの名において命じる。顕現せよ、タイタン!」

『監督、お呼びなんだな?』


 目の前に大きなモグラが現れた。頭には黄色い安全ヘルメットをかぶっている。準備万端だな。安全確認ヨシ。それにしても、監督? 現場監督ってことなのかな。

 なんだろう、俺が呼び出す魔法生物って、クセが強くない?


「ちょっと頼みたいことがあってさ、ここの地面を平らにしてほしいんだ」

『自分に任せてほしいんだな』


 そう言うと、あっという間に地面を平らにならした。まるでブルドーザーだな。それだけではない。周辺と同じように、緑の芝生まで再生させたのだ。

 植物まで育てられるとか、チートがすぎるぞ。


「す、すごい。これならだれが見ても俺がこの場所に穴をあけたことに気づかないよ。ありがとう、ルーファス。さすがは俺のかわいい弟!」

「貸し一つですからね、レナードお兄様? いつかちゃんと返して下さいよ」

「しっかりしてるな~。分かった。貸し一つだ。男に二言はない」


 本当かな~? 午前中に怒られたばかりなのに、午後には新たな問題を起こすような兄の言葉を信じてもよいものか。まあ、別に俺も本気で貸しにしているわけではないからいいけどさ。


 庭が元に戻って安心したのか、レナードお兄様が軽い足取りでどこかへと歩いていった。あれは反省していない足取りだな。また別のどこかで同じことをやりそうで怖い。まあ、俺にはどうすることもできないけどね。


「ありがとう、タイタン。しっかりと能力を見せてもらったよ。キミは有能だ。名前をつけないといけないな。どんな感じがいい?」

『監督に任せるんだな』

「それじゃ、モグランだ。改めてよろしくね、モグラン」

『よろしくなんだな』


 新しくタイタンのモグランが仲間に加わったぞ。テッテレー!

 特技は土いじりだな。この感じだと、植物も問答無用で生やすことができそうだ。下手に使うと目立ちそうだけど、どこかで試してみたい気もする。


 とりあえずこの場にいるラギオスとカイエンを紹介しておく。もちろんモグランも小さくなれるので、持ち運びには困らない。

 そしてムクムクと俺の中に湧き出てくるモグランの力を試したい欲。平らにして草を生やすだけじゃ物足りない。


 もっともっとモグランのことを知らなければね。レナードお兄様を助けるために呼び出したとはいえ、それだけではモグランに申し訳ないからね。

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