第43話 つまり、お父様似ってこと

「どうする?」

「どうするって、ギリアムお兄様、なんとかして下さい」


 レナードお兄様からの質問を右から左へとギリアムお兄様へ受け流す。エラドリア家の長男であるギリアムお兄様ならなんとかしてくれるはず。


「ルーファス、相手の記憶を操作することができる魔法生物を呼び出せないかな?」

「……それって犯罪ですよね?」


 どうやら色々と一杯一杯になってしまったギリアムお兄様は、丸ごとそっくりとなかったことにしたかったようである。

 だがしかし、記憶の改ざんは犯罪だろう。そんなことをできるスキルがこの世に存在するのかは不明だが。


「さすがにまずいか。しょうがない。このまま母上が起きるのを待つしかないな。さいわいなことに、今日の夕食の席には国王陛下はいらっしゃらないみたいだからね」

「私がどうかしたのか?」

「ゲゲッ、国王陛下!」

「なんだそのゲゲッは」


 よほどの不意打ちだったのだろう。普段は絶対に使わないような言葉を発したギリアムお兄様。俺たちがギリアムお兄様に丸投げしてしまったばかりに。申し訳ないと思っている。

 そんな国王陛下は倒れている王妃殿下に気がついたようである。


「ミリア!? 一体、何が……ああ、もしかして、その見慣れない魔法生物が原因か? まったく、ルーファスは何度言っても聞かないな。いつからそんな子に……おっと、待ってくれ。怒っているわけじゃないぞ?」


 モグランが両手の爪を自分の体の前で上へ向けて、戦闘態勢に入っている。

 そう言うお父様も同じやり取りを何度も繰り返しているぞ。俺が同じことを繰り返すのは、間違いなくお父様の血を引いているからだ。


「えっと……」

「違うのか、ギリアム? それならどうしてミリアが倒れているのだ」


 ここでモグランが原因だと言っても、復活したお母様によってすべてが覆されるのは目に見えている。そのことはギリアムお兄様も分かっているみたいで、俺たちはそろってことのいきさつを話した。


 国王陛下は”超”がつくほどの愛妻家である。それはたとえ、いくら尻に敷かれていようともである。むしろそれを喜んでいる節もあるのだ。なかなか独特の性癖を持っているな。

 そんなわけで、これ以上、話がややこしくなる前にすべてを詳しく話した。


「世界樹の葉に悟り草、プラチナソニア、ワイルドソラ、復活草。ウワサでしか聞いたことがないし、知らない名前もあるな」

「私は世界樹の葉しか聞いたことがありませんよ。売ったらいくらになるんですか?」

「レナードはルーファスと同じようなことを言うね。売らないよ。もったいない。これを逃したら次はいつ手に入るのか……って、ルーファスがいればいつでも手に入るようになるのか」


 三人の視線が俺に集中した。確かにその通りである。激レアな素材が簡単に手に入ってしまうのだ。おそらくお母様はそのことにまで頭がいって気を失ってしまったのだろう。

 いつでも激レア素材が手に入るのなら、それはもはや激レア素材ではない。市場価値は激しく下がることになるだろう。


 その結果、引き起こされるのは市場の混乱だ。それは国全体に広まり、他国や他の大陸へと波及する。そりゃまずいわ。あまりのことの大きさに、俺も白目をむいて気絶したくなった。


「いつでも手に入りますが、もう二度とやりませんからね?」

「ふむ、そうは言うが、緊急用に優れた魔法薬が手に入るのであれば、使わない手はないな」

「やめておきなさい。どんなに口を塞いでも、いつかはウワサになるものよ。そうなってしまってはもう手の施しようがないわ」

「お母様!」


 どうやらお母様が復活したようである。いつものことだとはいえ、心臓に悪いのは確かだ。安心した。

 それは俺だけではなかったみたいで、国王陛下もお兄様たちも、どことなく表情が緩んでいるような気がする。


「よかった。気がつかれたのですね。国王陛下には先ほど母上にお話したことを一通り話しておきましたよ」

「母上、夕食が運ばれてきましたよ。みんなで一緒に食べましょう」

「国王陛下、夕食は別だとギリアムお兄様から聞いたのですが」

「そのつもりだったのだが、今日は色々あったからな。別の日に変えてもらったよ」


 ハハハと笑う国王陛下。気分を変えようとダイニングルームへ来たらこれである。そりゃ乾いた笑いも出るか。しょうがないよね。国王陛下と一緒に俺もハハハと笑っておく。


「ルーファス、他にも新たな魔法生物を呼び出したそうだな」

「花壇に水やりをしてもらうために、水を操ることができるウンディーネを呼び出しました。水色のスライムですね」

「スライム!」


 お母様が悲鳴をあげた。まずい、このままだとアクアが誤解されてしまう。なんとかしなければならない。


「スライムと言っても、魔物のスライムではありませんよ。丸くてポヨンとして、まるでシャボン玉のような感じの魔法生物です」

「シャボン玉みたいな感じね。ちょっと気持ちを整理するまで待ってもらえないかしら?」

「もちろんですよ」


 よし、どうやら今回はお母様を気絶させずにすみそうだぞ。いきなり召喚しなくてよかった。俺も成長したものだ。

 夕食の席ではギリアムお兄様が先ほどの素材がなんの魔法薬になるのかの説明があった。


 やたらとキラキラした笑顔で説明するその様は、近いうちに作らせるつもりだなと理解するのに十分だった。他の家族もそう思ったのか、ギリアムお兄様を止める人はいない。

 本当に色々と知っているよね、ギリアムお兄様。もしかして、自分で作るつもりじゃないよね? さすがのお兄様でもそれはムリがあるんじゃないですかね。

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