第35話 つまり、コンプリートってこと

 ベアードから絵を教わりつつも、図鑑の草案を仕上げていく。新たに追加される魔法生物の数は多いが、何を書けばいいのかは分かっているので、そこまで時間はかからなかった。


「これで草案はよさそうだな。セルブス、あとはだれに見せればいいのかな?」

「第一王子殿下に見ていただければ、まず間違いないと思います」

「なるほど、確かにギリアムお兄様なら適任だね。図鑑とか、たくさん作ってそうだからね」


 学者スキルを持つギリアムお兄様がいてくれて本当によかった。きっと学者的な観点からも俺の作った草案を見てくれるだろう。それよも、すべてをギリアムお兄様に丸投げした方がよかったのかもしれない。

 俺を溺愛するギリアムお兄様なら、きっとやってくれるはず。


 次からはそうしようかな? なんて思っていると、ギルドの扉がノックされた。

 都合よく本人登場!? と思ったが、部屋に入ってきたのはレナードお兄様だった。隣にいる側近の手には紙の束が載っている。まさか。


「ルーファス、国王陛下から頼まれていた”調べたい武器一覧”を作ってきたよ」


 そう言って、机の上にドンと紙の束が置かれた。武器だけでこれだけあるの!? まさか、古今東西の武器を全部書いたんじゃないよね? 国王陛下は重要そうな物だけだと言ってたと思うんだけど。


「武器ってそんなに種類があるのですか?」

「それはそうだよ。剣や槍だけじゃなくて、城攻め用の攻城兵器や、逆に城を守るための防衛兵器なんかも含まれているからね」

「それって、今でも使われているのですか?」

「もちろんだよ。でも、古代文明時代はもっとすごい兵器があったみたいなんだよね」


 うれしそうに目を輝かせるレナードお兄様には悪いが、俺は危険な兵器を出すつもりはないぞ。

 これは困った。正直に話すべきなのか、トラちゃんの中に入っていなかったことにした方がいいのか。


 便利家電や大量破壊兵器が普通に入っている時点で、ほとんどの物が入っているような気がするんだよね。レナードお兄様が期待する兵器とやらも、きっと入っていると思う。

 どうしたものかと考えながらも紙の束に目を通す。当然のことながら、名前だけではどれがそれなのか分からなかった。こんなことなら兵器の勉強もしておくべきだった。


「ん? この一覧って、もしかして」

「気がついた? それは伝説の武器一覧だよ! ルーファスも気になるよね?」

「そ、そうですね」


 気にはなるが、レナードお兄様ほどではないと思う。どちらかと言うと、胃が痛くなる方の気になり方である。レナードお兄様が極上のスマイルを浮かべて俺を見ているな。

 はぁ。とりあえず、この伝説の武器一覧だけは今すぐに調べることにするか。そうでないと、レナードお兄様が持ち場へ戻りそうにないからね。


「それではこの一覧から調べてみますね」

「頼んだぞ、ルーファス!」


 ずいぶんと楽しそうですね、レナードお兄様。

 トラちゃんを召喚すると、上から順番に調べていく。俺が知っている名前の武器もあるけど、知らない武器も結構あるな。


 剣にしか興味がないのかと思っていたけど、どうやら武器マニアだったようである。レナードお兄様の新たな一面を知ってしまったな。なるべく武器を見せないようにした方がよさそうだ。


 一覧の最初のページは俺でも知っているような、超有名な伝説の武器ばかりだった。有り体に言えば、前回、取り出したエクスカリバーとかである。

 トラちゃんにコソコソ尋ねながら調べていく。トラちゃんの返事の答えをレナードお兄様に聞かせるわけにはいかないのだ。


「うげげ、一枚目は全部あるのか。まさか弓やハンマーまであるとは思わなかった」

「ん? なんだって?」

「いえ、なんでもありませんよ。結果は国王陛下に報告すればいいのですよね?」

「そうなんだけど、俺も知りたいな」


 ニコニコと笑顔を浮かべているレナードお兄様。断りたいけど、断るのがはばかられるような笑顔である。これは覚悟を決めて言うしかない。お父様、お母様、役立たずの三男坊をお許し下さい。


「えっと、一枚目の武器は全部ありますね」

「全部!? ルーファス、それを見せてもらうことはできないかな?」

「国王陛下とお母様の許可があればお見せすることができますよ?」

「ジーザス!」


 両手で頭を抱えながら天を見上げた。そんなレナードお兄様を残念な人を見るような目で見つめるララ。そういうところだぞ、レナードお兄様の残念なところは。

 俺の無情の宣言に、ガックリと肩を落としながらも一枚目の紙を受け取ったレナードお兄様はそのままトボトボと部屋から出て行った。


 哀愁が漂っているなー。

 でもレナードお兄様、その紙を持って国王陛下のところに行くつもりなんでしょう? この程度のことであきらめるようなレナードお兄様じゃないからね。


 そして国王陛下とお母様から”ダメだ”と言われても、夜にコッソリと俺の部屋へと来るはずだ。やっぱりなかったことにしておけばよかったかな。

 だが、レナードお兄様がいなくなったのはこれ幸い。今のうちに、残りの一覧を確認しておこう。後半になるにつれて、知らない名前ばかりになっているけどね。


 召喚ギルドでの仕事をほっぽり出して、必死のパッチで確認していく。レナードお兄様が戻ってくるまでが勝負だ。下手すれば、国王陛下が口止めのためにここへやって来るかもしれない。


 もしそうなればこの一覧を国王陛下が見ることになるだろう。そして結果がどうなったのかを尋ねてくるはずだ。そのときまでにある程度のことを把握して、国王陛下へひそかに密告しないと。危険な兵器がたくさん入っていますよってね。


 ん? カノン砲!? 冗談だよね? この世界に火薬があるだなんて、見たことも、聞いたこともないぞ!

 うわぁ、先が思いやられるなぁ。

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