第36話 つまり、出すなよ、絶対出すなよってこと

 カノン砲の次はガトリング砲である。魔法がある世界線なのに火力兵器がそれなりにあるとはこれいかに。

 おいおい、ちょっと待てよ。なんだよ、レーザー銃って。こんなのもトラちゃんの中に入ってるの!? 古代文明はどこへ行こうとしていたのか。


「もうダメだ」

『主、少し休憩した方がよろしいのではないですか?』

『そうですぞ。若様はまだお若いのです。急にそんなに頑張る必要はありませんぞ』


 俺のことを心配したラギオスとカイエンがすり寄ってきた。う、かわいすぎるだろ、俺のモフモフたち。

 どうやら必死の形相をしつつ、絶望的な表情をしていたようである。


「二人の言う通りだね。休憩にしよう」

「ギルド長、お茶の準備ができておりますわ」

「ちょうどよかった。ララはよく気が利くね」


 俺の笑顔にはにかむララ。まるでかわいい弟を見ているかのようである。どうやら他のみんなにも気をつかわせてしまったようだ。トラちゃんも疲れているだろうし、色々とあきらめて休むとしよう。


「はぁ。お茶がおいしい」

「ルーファス王子、これだけの目録の量なら、時間がかかっても仕方がないと思いますよ」

「そうだね。じっくり時間をかけて、まだまだ時間がかかりますって言っておこうかな」


 そうすれば、いつの間にか忘れてくれるかもしれない。そうなったらうれしいな。

 あ、でも、追加でギリアムお兄様からの目録が届けられるのか。ギリアムお兄様には魔法生物図鑑の草案の件でお世話になることになるし、機嫌を取っておく必要があるんだよね。


「ギルド長、どのような物が入っていたのですか?」

「知りたい、ララ?」

「いえ、やめておきます!」


 イイ笑顔をララに向けると、速攻で拒否された。これは聞いてはならないと、本能的な恐怖を感じ取ったようである。ララは小動物な見た目なだけに、危険は敏感に察知したようである。


 その隣に座っていたセルブスも、視線を下げたまま、俺と目を合わせることはなかった。どうやら空気を的確に読んだようである。さすがは元ギルド長なだけはあるな。

 バルトとレイは……前の壁を遠い目をして見つめているな。私たちは何も聞かなかったということなのだろう。


『ダーリンが大変そうね。あたしも手伝ってあげるわ。えっと、なになに、チハ? トラちゃん、持ってる?』

『えっと、ありますね』

『ふ~ん、かわいい名前をしてるわね。どんなのか見せてよ』

「やめなさい! トラちゃん、出したらダメだからね?」

『ダーリンのケチ』


 口をとがらせるティア。だがちょっと待ってほしい。室内に戦車を出すとかやめてよね!? この部屋の床がどれだけの重さに耐えられるのかは知らないけど、床が抜けるようなことになれば大変だ。下の部屋にも人がいるだろうし、ごめんなさいではすまされないだろう。


「チハ……聞いたことのない名前ですな。ルーファス王子はご存じのようですが」

「セルブス、世の中には知らない方がいいことがあるんだよ」

「……そのようですな」


 ハハ、ハハ、と乾いた笑いをしたセルブス。知らない方がいい。戦車の話をしても分からないだろう。それにしてもなんでもあるな。

 この世界って、どこか地球とつながっているのか? そんな疑問を持ちたくなるほどである。あ、でも、レーザー銃はなかったか。それじゃ、単なる偶然なのか……?


 そこからはペースを落として目録の確認を行った。これまでのところ、そのほとんどがトラちゃんの中に入っているのだ。これはもう、”ほとんどあります”ですませていいと思う。国王陛下も出して確認しろとは言わないだろう。




 俺の予想に反して、レナードお兄様と国王陛下が召喚ギルドへ来ることはなかった。

 だがしかし、そろそろ昼食の時間かなと思ったところで、国王陛下から昼食のお誘いが俺の元へと届いた。


「どうなさいますか?」

「行こう。きっとこれの話だよ」


 そう言って、レナードお兄様が持って来た目録の束を指差した。無言でうなずくバルトとレイ。二人も分かっているのだろう。俺が拒否したら、なだめて連れて行くつもりだったはずである。


「それがよろしいかと思います」

「レナードお兄様、叱られたかな?」

「可能性はあるかと……」


 俺の質問には苦笑いである。レナードお兄様がどのくらい粘ったかは分からないが、最終的には怒られたのではないかと思っている。これは夜に俺の部屋へコッソリと来るな。

 どうか俺の部屋でレナードお兄様が変な叫び声を上げませんように。


 もし俺がレナードお兄様に伝説の武器を見せていることがバレたら、二人で説教されることになるだろう。俺、そんなの嫌だからね。

 国王陛下を待たせるわけにはいかないので、セルブスとララに断りを入れてから、指定されたサロンへと向かった。念のため、みんなを連れて行く。


「……ルーファス様、魔法生物は還しておいた方がよろしいのではないでしょうか」

「なんで?」

「いえ、ほら、目立ってますよ?」


 バルトが申し訳なさそうにそう言った。周囲を見てみると、なんだかチラチラとこちらの様子をうかがう人たちの姿があった。

 召喚ギルドは奥まった位置にあるので、人通りはそれほどでもない。だが先に進むに連れて、もっと目立つことになるだろう。


「うーん、俺の生命線なんだけど。そうだ、みんな、小さくなってよ」


 そう言うと、ラギオスは子犬のサイズに、他のみんなは手のひらサイズになった。これなら懐に入れて連れて行くことができるぞ。ちょっと胸元がパンパンになるけど、この状態でラギオスを抱けば完璧である。

 だれがどう見ても、モフモフを抱えた王子にしか見えない。


「これならどう?」

「それならなんとか……」


 なんとかバルトから及第点をもらえたようである。そのままの状態で、俺はサロンへと急いだ。もちろん途中で何度かラギオス吸いをやっておいた。

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