第34話 つまり、セクシーってこと
翌日、さっそくセルブスとララにフェアリーのティアを自慢するために召喚ギルドへと向かった。部屋の中ではセルブスが何やら書き物をしており、ララはマーモットとバードンを同時に召喚して、思い通りに動かす練習をしているようだった。
だが、あまりうまくいっていないのか、マーモットが動けばバードンの動きが止まり、バードンが動けばマーモットの動きが止まっていた。
……もしかして、魔法生物を同時に動かすのは難しいことだったりするのかな?
俺の場合はオートでみんなが動くから、そんなこと気にしたことがなかったんだけど。
どうやら俺の召喚方法と、他の人の召喚方法では大きな違いがあるようだ。
もしかすると、ペットとして動物たちと慣れ親しんだ俺と、そうではない人たちでは意識の違いがあるのかもしれない。これは今後の課題になりそうだ。
「おはよう、みんな」
「おはようございます、ルーファス王子」
「おはようございます、ギルド長」
「今日の二人の予定はどうなっているのかな?」
話によると、セルブスは今日中に図鑑の草案を完成させるつもりのようだ。そしてララは新しい魔法生物の召喚を練習するつもりのようである。
それなら俺はベアードを出して、セルブスの仕事を手伝うことにしよう。ララにはマリモのスケッチをしてもらおうかな?
「昨日の夜に新しい魔法生物を召喚したんだ。みんなにも紹介するよ。ルーファス・エラドリアの名において命じる。顕現せよ、フェアリー!」
『どうも~。お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞっ!』
冗談っぽく、ほほに人差し指を当てたティアが登場した。
だがしかし、その場の空気が固まってしまった!
やっぱりフェアリーはダメだったのか? それとも、ティアのセリフがアウツだったのか?
「フェアリーのティアだよ。本当にイタズラすることはないから大丈夫……いや、そう言えば昨日、ドキッとさせられたよね、確か?」
『あらやだ、ちょっとしたおちゃめよ』
「ちょっとしたねぇ……」
どうやらティアはちょっとしたおちゃめが好きなようである。
つまり、やっぱりイタズラ好きフェアリーだったってこと。
これは先が思いやられるなぁ。
二人にティアがどんな能力を持っているのかを話しているうちに、少しずつだが警戒心が取れていったようである。再起動した二人がティアの姿を観察している。
召喚スキルの基本は観察からだからね。しっかりと思い浮かべることができなければ、呼び出すことはできないのだ。
「これは驚きましたな。まさか、物語の中のフェアリーを、現実世界に呼び出すことができるだなんて。子供たちが喜びそうです」
セルブスが目尻にシワを作り、温かいほほ笑みを浮かべている。お孫さんのことが思い浮かんだのかな? もしかしたら、見せてあげたいと思っているのかもしれない。
「私もフェアリーを召喚することができるようになれば、髪を乾かすことができるようになるのですね。これなら私も髪を伸ばすことができます!」
両手をパチンとたたいて、うれしそうにララが声を上げた。どうやらララは長い髪に憧れていたようだ。俺はララのその短い髪型も素敵だと思うけどね。
「そう言えば、ティアに髪を乾かしてもらったら、なんだかいつもより髪がつややかだったような気がするんだよね。もしかすると、髪を乾かす以外にも追加の効果があるのかもしれない」
「ギルド長、その話、詳しく!」
ララがその小動物のようなかわいらしい顔をグイグイと近づけてきた。
恐るべし、美への追求。当然だけど、ララも女の子なんだな。これはお母様に知られるとまずいことになるかもしれない。毎日、お母様の髪を乾かすことになったりしてね。
うん、ありえそうだぞ。黙っておこう。バルトとレイに目配せすると、二人は確かにうなずいた。
言うなよ、絶対に言うなよ。
これはララはライトモスよりもフェアリーを先に召喚することになるかもしれないな。
ララにティアのことを話しつつ、ララからのお願いでティアにモデルになってもらうことにした。
そんなティアは自分がモデルになると聞いてとても張り切っていた。セルブスとララのためにマリモを召喚すると、すぐにマリモの上にマウントしてポーズを取っていた。
何そのちょっといやらしいポーズは。セルブスがなんだかソワソワした様子でチラチラ見ているぞ。
セルブスが集中できないから普通のポーズにしなさい。セルブスは気がついているのだろうか? すでにティアがセルブスにイタズラを仕掛けていることに。
だがセルブスは孫のためにも、フェアリーを召喚したそうではあるんだよね。ひとまずこのままで様子を見るか。
その間に俺はセルブスの仕事を手伝おう。これでも見た目は子供でも中身は大人なのだ。研究レポートなら学生時代に何度も書いたからね。テンプレートさえあれば、余裕のよっちゃんである。
『え、なにこれ……もしかしてあたし!? ララ、あなた、絵が下手なのね』
「ううう……そんなにハッキリ言わないで下さいよ~。私に、私に絵の描き方を教えて下さい、ベアード先生ー!」
『ベア?』
うーん、ララが俺の魔法生物たちにずいぶんとなじんできたな。これはララが覚醒する日も近いのかもしれない。あとはもう少し絵が上手だったらよかったのに。俺も人のこと言えないけど。
「よし、ララ、俺と一緒にベアード先生から絵を学ぼう。よろしくお願いします、ベアード先生」
『ベアッ』
「それなら私もご一緒いたしましょう。私も得意とは言えませんからね」
こうしてセルブスも仲間に加わった。せっかくなので、バルトとレイにも参加してもらう。立ってばかりではきついだろうからね。絵を描くとなれば、イスに座ることになるのだ。
『ダーリンの絵も見せてもらえる?』
「こんな感じだけど……」
『ブフォオ! え、冗談でしょう!? これ、マンドラゴラよね?』
「いや、違う。これはティアだ」
『ウソダドンドコドーン!』
あまりのショックに、ティアがムンクの叫びみたいになってる。今のティア、この絵にそっくりなんだけど。
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